異世界でガチャを引く
ズタタクヤ
第1話
剣と魔法のファンタジー世界。
そんな世界のとある国の王都の魔法大学で、ファンタジー世界には似つかわしくないガチャを作っている青年がいた。
異世界転生後、ガチャを作ろうとしている酔狂な男。そう、俺である。
そもそも、異世界転生と呼ぶべきではないのかもしれない。頭の中に、現代日本で生きた男の記憶があっただけ。伝記を読んだに近い。
エジソンの伝記を読んでも発明王にはなれないように、俺もその男になったわけではない。
そんな哲学的なことを考えながら作業を行っていたら、ついに完成した。
縦長の長方形。上部が透明。中央部分にレバー。日本のスーパーマーケットやデパートなどでよく置いてあるガチャとそっくりそのまま。
「よし、回すか」
異世界ファンタジーおなじみのモンスターからとれる魔石をセットして、レバーを回す。
複数の魔法陣が上部の空洞の中で光り輝き、入り乱れ、稲妻が走る。次第に収束していき、一つの光の玉となる。
出口から飛び出てきて、足元へと転がる。
「頼む。競竜(競馬のドラゴン版)で当てた1千万エーンで買った魔石なんだ。神様、一生に一度のお願いです!」
神に祈り、目をつむる。
今までの人生が走馬灯のように流れてくる。
商人の3男に生まれ、日本の記憶があったせいで大人ぶった生意気なガキだった。100人に1人と言われている魔法使いの才能があったのも生意気さに拍車をかけていたのかもしれない。
そんなクソガキだった俺だが、大学では魔力が少なく落ちこぼれ。双子の妹からは、幼少期の恨みを晴らすかのように、大魔法使いになるんじゃなかったのクソ兄貴、大魔法使いであらずんば人にあらずって言ってたし、もう人間未満のゴミムシだね♪と煽られる始末。悔しい。二度と実家に帰らん。
春の空中競竜G1レースでは3連複を見事1千万エーンあてるも、一緒に来ていた友人が3連単で1億エーンを的中。なんかちょっと悔しい。俺も3連単にすればよかった。
だがそれも今日まで。このガチャマシーン1号は世紀の発明品。人生大逆転コースへ直行よ。
ガチャの仕組みはこうだ。神が授けたといわれている5つの魔法の1つ、一度使用したら二度と解除できないといわれている封印魔法。この封印魔法の正体が虚数空間に物体を移動させる魔法で、一般相対性理論を使用し、座標の指定が宇宙……。
細かい原理はどうでもいいか。ぶっちゃけ、俺も8割方理解できてない。ラマヌジャンもびっくりの適当魔法陣でうまく起動できたから、制作した。
要はランダム封印解除装置。
これで金銀財宝から古代の聖剣から魔剣まで、失われた伝説が俺のもの。
光が弱まっていく気配を感じ、目を開ける。
石ころ。
「嘘だろ!!」
急いで魔法を使用する。
「鑑定魔法:妖精の眼」
魔法陣が展開され、目玉と神経だけが現れる。
しばらく石ころを凝視すると消え、空中にが現れる。
古紙に妖精語で書かれた文字を読む。
【石ころ】 レア度:石ころ級
石ころ。ほのかに神代の香りがする。きっと神代の賢者が封印魔法の練習の際に対象にしたのだろう。1千万エーンが石ころになっちゃったね(笑)。勇者が腰かけた岩が観光の名所になるし、この石にも価値があるといいね( ´∀` )
ふざけた文章だ。妖精に見てもらい結果が紙に記載されるというぺっぽこ魔法。見てもらう妖精次第で結果も変わるし、間違っているたり騙してきたりなんてこともよくある。とんだ欠陥魔法だ。wikiより信頼できない。大体、目だけでどうやって香りがわかる。魔力が少なくこんな魔法しか使えない自分が情けない。涙出てきた。
「まだだ。まだ実は賢者の石でしたという可能性だってある。とりあえず石に魔力がないか調べてみよう」
魔力を調べてみた。魔力0。
煮たり、焼いたり、好きにしてみた。なにも変わらない。
割ってみた。中身までただの石。
日が暮れて、夜も深くなり、現実逃避をするように寝た。
朝になり、ベットから降りる。あれベットじゃない。研究室のソファーだ。ガチャマシーン作るのに熱中してそのまま寝ちゃったのかな(現実逃避中)。
立ち上がり、凝った体を伸ばす。
「それにしても、嫌な夢をみた。1千万エーンが石ころになるなんて、そんな……、夢じゃない!」
昨日の朝とは違い物が散乱する部屋。焦げた天井。床に付いた薬品のシミ。昨日までなかった汚れがたくさんある。
でも、ただ1つ。昨日まで、机の上に大事に置いてあった魔石がなかった。代わりに割れた石ころがぞんざいに転がり落ちていた。
「kじゅだshbんvっぐおい」
声にならない悲鳴を上げて、 やっと現実を受け止める。
やっぱり、異世界でもガチャはろくなものじゃない。
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