ご近所STORYⅢ ノウハウ・オブ・シンギュラリテイ

主道 学

第1話 プロローグ

 ここはC区モーター・スポーツ・レーシング場。

「おーっと、夜鶴選手のトゥアタラがゴールイン!!」

 レポーターの竹友 友竹が、東京ドームほどの広さのレーシング場で叫んだ。


 奈々川首相率いるAチームは、あらゆる政敵を退けている真っ最中だった。

「いやー、奈々川首相率いるAチームはこのところ連戦続きですね」

 竹友の隣の常連ゲストの斉藤は、話し続けた。

「なんたって、1年前の興田 道助のCチームを打ち負かしてから、次々にレースの試合やサッカーの試合、野球の試合やボクシングの試合なんかも挑まれているみたいですからねー。これは困った! いずれも真剣勝負でしょう!」

「このところ、日本の将来は良くも悪くも右に左に激しく方向性が向いてはいますからね。対戦相手もB区やC区から、いずれも強豪選手を送り込んでいるようです。勝てば政権を得られると……皆、血眼になっているのでしょうね」

 竹友は目を見張るようなAチームのドライビング・テクニックを楽しんでいる。

「おー!! それはそうと、今度は矢多辺選手のランボルギーニ・エストーケだ!! 唸り声を張り上げゴールイーン!!」

 と、竹友は40代の丸顔で銀髪の短めの髪。隣の斉藤も同じく40代で髪を赤く染めていた。  

 

 レーシング場は変わることがない大歓声を受け続け、応援席の奈々川首相は小首を傾げていた。

「さあ、対戦相手のC区のノウハウも負けてはいません! それぞれ高性能の頭脳を持ってトゥアタラR2のスピードにテクニックで、他のAチームは苦戦を強いられているようです」

「おや、もうすでに三体のノウハウがゴールしていますから……後、一体のノウハウがゴールすればこの試合はC区の勝利で終わりですね。このまま日本が変わる瞬間でしょうか」

 

 竹友の言葉に斉藤はシリアスに言った。

 その時、遥か後方のスカイラインGTOが爆発した。


「おーっと! あれは遠山選手の車です!」

 竹友はある種の青ざめている顔に期待を抱いていた。

 スカイラインGTOは跡形もなく消え去った……。


 斉藤はストップウオッチを見た。

「速い!」

「へ? 何がですか斉藤さん?」

 遠山の決死の覚悟のドラックレース流の挑戦だった。見事スカイラインGTOは、音速を超えた。

 爆発したかのような事象は、全て遠山が勝つようにと、この試合のために女性バイトが狙ってニトロをエンジンに大量にぶち込んでいたという凄まじいまでの献身的なマヌケ心である。


 あっという間に、遠山のスカイラインGTOはノウハウを縫うかのように追い抜いていく。

「あれ? 何か前を通り過ぎていきませんか? 斉藤さん? なんか変な……まるで空気が叫ぶかのような音がします」


 斉藤はストップウオッチを握る手が震えていた。

「時速1300キロですからね。目には見えませんよ。A区の底力……私は戦慄さえしますよ……あ! もうすぐです! コントロールラインに……見えますか竹友さん? ほら、あの光です!」

 光が一瞬だけ輝いた。

 遠山がスカイラインGTOで、コントロールラインをぶち抜いていた。

 

「遠山選手ゴールイン! 再びAチームの勝利ですー!」

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