第7話 接触

「渋谷。俺としてはお前は充分によくやってる。だからこそ告白した方が良いと思う」

「...そうかな。私は...」

「大好きっていう愛を伝えないで死ぬのは...考えられないんだ。俺にとってはな。まあ俺なんぞが...言いたくは無いが」


俺は顔を顰める。

それからドリンクバーで2杯目のジュースを飲みながら目を逸らす。


そして渋谷を改めて見た。

渋谷は「...?」という感じで俺に向く。

まあコイツなら話してもいいか。


「俺は...浮気されたんだ。彼女に」

「え...」


渋谷は凍り付く。

それから「そっか」と言う。

俺は肩を竦めた。

そして渋谷を見る。


「俺はどうしようもない野郎だから」

「そんな事はない!」

「っ!?」


いきなり渋谷が大声を上げた。

そのせいで周りが「なんだ?なんだ?」と見てくる。

渋谷は「あ」と言って押し黙った。

それから赤面する。

俺はその姿を見ながらクスッと笑う。


「...渋谷。有難うな」

「な、何が?」

「俺はお前と友人になれて幸せだわ。何かお前の事、嫌いにならないしな」

「そ、そう?有難う」


正直。

俺は暫くは友人も。

ましてや女子の友人を作る気は無かった。

だからこうして渋谷が近付いて来ても否定的だった...のだが。

だけど渋谷はこうして俺に優しく接してきた。

まだ俺は死ぬ必要はないという事だろう。


「なあ。渋谷」

「うん?何」

「これからどうするんだ。お前は」

「...私はこれから君に言われた通りの行動をしようと思うよ。だけどまだ告白は...無理かな。なんかまだ恥ずかしい」

「...そうか。まあお前の段階で歩めば良いんじゃないか。ゆっくりな」

「そうだね。...私は私なりに歩むよ。有難うね。横田くん」


そうしていると「あれ」と声がした。

その声の主に俺はイラッとした。

同時に。

落胆した。


「春樹じゃん」

「...須崎」


俺は睨む様に須崎を見る。

その背後に新しい浮気相手。

俺の親友だった存在の伊藤信孝(いとうのぶたか)が見下す様に居た。

何か誤解されている様だが。


「彼女は俺の彼女じゃない。あくまで親友だ」

「ああそうなのか。白髪だからお似合いだと思ったんだが」

「あ?」


俺は酷くイラッとしたが。

敢えて絡まずに立ち上がる。

それから渋谷の手を引いてから「帰ろう。クズどものお出ましだ」とファミレスを後にしようと金を払う。

すると背後から「クズに言われたくないな」とゲラゲラ笑う声がする。


「あの人達、何?横田くん。何だか腹立つよ」

「浮気した元カノ。それから元親友だ。腹立つから帰るよ」

「そうなんだね...」

「ああ。すまないな。不愉快な思いをさせたな」

「いや...私は構わないよ。白髪がお似合いとか言われてもどちらにも取れるから嬉しくもない」


そして俺達は分割して清算。

それからファミレスを後にした。

正直、もう少しばかり話はしたかったが彼女に過負荷がかかる上にこれ以上の滞在はゴミを捨てるよりゴミ過ぎる。

そう考えながら俺は帰宅した。

途中で渋谷と別れてから、だが。



彼女に余計なものを見せたなって思う。

それから俺は帰宅してから自室に籠った。

イライラが治らない。

アイツめが。

須崎と付き合っていたのがこんなにクソッタレだとは。

まあ正直、見抜けなかった俺も大概クソだが。

思いながら俺はスマホを弄る。


「...」


そしてこれまでの事を日記に書いた。

スマホ日記帳。

このアプリは非常に便利だ。

何故ならサーバーに記録が残せるから。

そう考えながらスマホのキーボードをタップしているとインターフォンが鳴った。


「?」


夕食の時間にはまだ早いと思うが?

そう思いながらドアを開けると何故か天水が俺を見て立っていた。

腕捲りをしている。

掃除用具らしき物まで持っている。

ん?


「横田くんのお部屋を掃除しに来ました」

「は?!い、いや。そこまでしてもらう義務は無いんだが」

「義務ですか。いや。義務じゃないです。お礼です。私の知り合いの渋谷美海さんとお友達だそうですね」

「...それか」

「はい。だからそのお礼を兼ねて」


俺は考えながら「しかしお前。俺の部屋を片したら時間がかかるから」と言うが。

天水は話を聞かない。

俺は盛大に溜息を吐いた。

それから室内に招く。

天水はは律儀に頭を下げて入って来る。


「横田くんも手伝って下さい」

「当たり前だろ。俺の部屋だぞ」

「そう言う割には整頓がなされていません」

「苦手なんだよ。すまないな!?」

「はい。ちゃんと言えて偉いですね」

「貶しているのか褒めているのか。お前は訳が分からないな」


「ですかね」と言いながら首を傾ける天水。

俺は顔を引き攣らせて苦笑する。

自覚無しか。

俺は思いながらも(まあでも彼女がそうしたいって言っている。なら甘えるか)と考える。

それから天水に頭を下げる。


「有難う。部屋の掃除、頼む」

「私は受け取ったものは返さないと気が済まないタチなのですいません」

「謝る必要は無い。寧ろ凄いよ。それで行動できるのがな」


言いつつ俺は天水を見る。

天水はぽかんとしていたが微笑んだ。

それから柔和になる。

かなりドキッとした...。

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