ある兵士の話

波多野古風

上等兵の日記

 ああ、食糧がない。共に上陸した戦友は大方斃れ、援軍も日増しに痩せ細り、皆小銃を杖代わりして食糧を探している。数少ない弾薬を、当たりもしない鳥獣に使い切り、もはや米兵と戦う気力もない。米兵は強固たる防護陣地を築き、物資を奪うこともできない。現に二十余名で編成された決死隊は未だ帰っていないのだ。それでも我々は彼らの帰還を信じ、虫や野草で食い繋いだ。しかしそれももう限界だ。千もの兵士が食糧を奪い合っているのだ。周辺に残っているのは、戦友だったものと皮を剥がれた木々のみである。

 ああ、マラリアだろうか。また若い二等兵が斃れ動かなくなった。


 私は未だ眼前にある肉の塊に手を出せずにいる。もう二日何も食べていないのにだ。しかし、これを食べるわけにはいかない。人の心を失ってまで生きたくはない。

 ああ、それにしても腹が減った。何故私の人としての心はこれ程までに強情なのか。肉塊は幾重にも重なり、食えと言わんばかりに眼前に鎮座しているというのに。

 ああ、腹が減った。

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