第6話 過ぎ去った時間を思い返した
時は過ぎる。電光石火の如く。
と言うわけで2年が過ぎて12歳になった。学園入学の年だ。
2年間で何があったか。
僕の背が少しだけ伸びた。アレンの背は結構伸びた。現時点での2人の身長差は拳1つ分……………………以上だよ! そうだよ結構な差を付けられてるよ! ちょっと悔しい。
次兄はあの年すぐに、3番目の下の兄は次の年に学園に入学した。兄達が1人居なくなるごとに日常の不可がどかっと減るのが笑えた。下の兄も居なくなったら家庭教師もいなくなったけど、元々彼からはさして学ぶこともなかったから、そこからはアレンと2人、家の図書室に入り浸っての自習三昧に切り替えた。むしろ勉強が捗った。
お互いに課題を出し合って答え合わせしたり、得意な分野でそれぞれ教える側に回ったり教わったり、大変充実した1年だった。
魔法と剣術の稽古も、2人の方が捗った。捗りすぎてちょっとアレンの実力がゲーム開始直後より大分上になってしまった……かも、しれない。うん、でもアレンは元から出来る子だし、きっと大丈夫。騎士団の人達とは結構仲良くなった。アレンは明るいし強いし勇敢だ。上の兄弟達はみんなちょっと……性格がアレだからな。分かるよ。
アレンが騎士団を率いてくれたら、なんてことを若手の人がポロッとこぼしてしまって、他の人に窘められるなんてことも、1度や2度じゃきかないくらいあった。流石に聞かなかったことにした。
入学は、貴族家は試験などは勿論なくて、皆素通りだ。試験自体は存在する。平民枠ってヤツだね。こっちは結構ハードらしいけど、僕らには関係ないし触れる術もない。この枠でアレンの友人になる子――オルガが入学する予定。無事に入学は出来てると思うけど、ちょっと心配……早く結果が知りたい。
本当なら入学を確定させるためにちょっとくらいは手助けしてあげたかったんだけど、貴族の家の子供に自由に出歩けるような自由はないし、身動き取れなかったからこればっかりは仕方がない。オルガの実家って僕たちの家から1週間くらいかかるところにあるしね……。
「ザジ、荷物の準備は終わった?」
「うん。アレンは?」
得意満面の笑顔で少し大きめのトランクを掲げて見せてくれるアレンがカワイイ。
背は伸びたけど、そういう表情をすると流石にまだまだ少年だ。
僕も同じトランクの蓋を閉めて、荷造りは完了。
アレンも僕も、荷物はこれ1つきりだ。
制服1式を着用して、荷物に仕舞うのは普段着が2式、寝間着が2枚、下着が3セット、靴下は少し多めに5足、防寒用の上着1枚、それと個人的な持ち物が少々。僕もアレンも大差ない感じ。
ちなみに兄さんたちは自分で荷造りなんてしなかったし、荷物はそれぞれ馬車で2台ほどになってた。一体何をそんなに持っていくものがあったのやら。
元々僕もアレンも持ち物はさほど多くない。部屋に私物は殆どなくて、それも荷物に詰めてしまった。机の上に飾っていたアレンがくれた綺麗な石や木の実などは、勿論全部持っていく。宝物だし、置いておいたら捨てられてしまうかもしれないからね。
元からガランとした部屋だったけど、細かなそれらもなくなってしまうと、ますます寂しい部屋になった。
多分もう、この部屋に帰ってくることはないんだろう。学園は里帰りをあまり推奨しておらず、兄さんたちでさえほとんど帰って来なかった。
原作でも、ザジは学園を卒業したらそのまま兄達のパーティに加わって魔王退治の旅に出ている。アレンとオルガも同様だ。何しろ物語の出発地点が学園で、卒業式からの即時出発なんだから。
12歳から18歳まで6年間。鍛えられる限り鍛えて、僕らは魔王討伐の旅に出る。
今の学園の卒業生は、卒業後1年はそうして魔物討伐の外遊に出ることが義務となっている。とはいえ、真剣に魔王討伐に向かうものはごく少数だ。貴族の大半はある程度付き合いのある貴族同士で組んで傭兵を雇い入れて護衛とし、適当に周辺の魔物を狩ってお終いにする。平民はもっと酷くて、金持ちは代人を金で雇って自分の代わりに魔物討伐に行かせる。金持ち以外? 基本的にはいないが稀にいるそういう人は……要領の良い人は他の人の討伐に付いていく、が多いかな。要領が悪い人は、まぁ、お察しって感じ。学園に入るだけの学力を貧しい人が独力で身につけるのはかなり困難だから、ほとんどないし、あっても前者だ。そもそも要領が良くなければそんな環境下で学園入学程度の実力を身につけるなんてほぼ不可能だし。
勇者とその友人は、その数少ない例外ってわけだ。
2人だけで旅立つなんて正直言って正気の沙汰とは思えない。それを成し遂げたからこその「勇者」なんだろうけど。
僕も本当なら、アレンと一緒に旅に出たい。無理だけど。出来ないけど。
だってそれをしてしまったら、きっとこの「
そんなの絶対イヤだもの。
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