第37話 信仰
~第36話までのあらすじ~
響はオーナーの理想の未来を実現するため、
二本杉が見えてきた頃には、施設を出発するときとは一変、その雰囲気からピリピリとした緊張はなくなっていた。
「
5人ではずむ会話に夢中になりすぎて、着陸に失敗した人がいた。もちろん
「大丈夫ですか~!?」「あいちゃん、大丈夫!?」
墜落した永久野に慌てて駆け寄ったのは、
そしてもちろん、永久野は無傷だった。
「ねえ、ひーくん。これ...」
地面に座ったままの永久野が指さす方向を見るとそこには、インターホンがあった。
「ああっ!この前のインターホン!」
昨日来たときは気付かなかった!存在も忘れていたくらいだ。
そもそもこのインターホンを最初に見つけたのは、伊奈瀬に
「これって、ヤヌさんが言っていた...」
「
衣央の言葉に伊奈瀬が続く。
響と伊奈瀬たちは、ヤヌが理論帳を持ってきた夜に、インターホンの正体を教えてもらっていたのだ。一方の糸葉は何も知らず、
「やぬさんってだれ~!おうなさんもだれ~!ふかんのまってなに~!」
と空に叫んでいたので、響は「あとで教えてやるからな!」と言った。
「...押してみても、いいですよね?」
前回と同様、響の提案に反対する人はいなかった。
響はゆっくりとインターホンを押した。
ピンポーン。
静まり返る山には似合わない、特有の音色を奏でる機械音。残るは
やがてスピーカーから出てきたのは、聞き馴染みのある声だった。
「やあ響!3日ぶりだなぁ!」
どうしても拭い切れなかった不安は、この王那の声で吹き飛ばされた。いつも通りの明るい声であることもその理由であるが、俯瞰の占い帳の使用手順の1は、神を信じて崇めること。そしてインターホン越しに話している人物は、神そのものなのだ。
「伊奈瀬、あい、衣央。今日は糸葉ちゃんもいるようだ!アハハッ!」
1人で大笑いしている王那をよそに、響は「あとで教える」という約束を守った。
「糸葉。これが王那だよ」
「あ、これが王那なんだ!」
「...って、これとはなんだ、これとは!!」
王那の慌てっぷりに、伊奈瀬たちも笑う。
「こら!笑うな!...って、まあいい」
そう言って王那はコホンと咳払いした。途端に全員が静かになる。
「響に渡したいものがあるんだろ?伊奈瀬、あい、衣央」
「ちょっ!」「なっ!」「王那さん!?」
3人は、まるで心を見透かされたような王那の言葉に、驚いている。
「渡したいもの...ですか!?」
「いやっ、ちがくて、その...王那ちゃん!私たちのタイミングってのがあるの!」
「まあいいじゃないか。誕プレだ、誕プレ!」
永久野の主張も、王那の前では無効化されてしまうのだ。
「えーと、じゃあ...これ」
そう言って永久野が響に手渡したのは、小さめのツチノコのぬいぐるみだった。
「ひーくんがゲームセンターで最初に私に取ってくれたぬいぐるみと、同じキャラクターだよ。これはひーくんにお返しするために、私が獲ったやつ」
「永久野さん...!」
響の心には嬉しさがこみ上げた。
「私も、これあげる」
伊奈瀬の手には、1つのコップ。これも庭園のあとに行ったゲーセンで取った、カップルが使えるお揃いのものだ。
「1つは私が持ってるから、もう1つはひっきーが持ってて」
響はさらに嬉しくなった。
「あ、あとこれ」
伊奈瀬は追加で、コップを入れる袋もくれた。気が利く~!
「これは、私からです」
衣央が持っていたのは、お菓子の形をしたキーホルダー。衣央の好きなおせんべいと響の好きなチョコ、王那の好きなポテチの形だ。もちろんこれも...
「っていうか、全部ゲーセンじゃないですか!!」
「アハハハハッ!」
インターホン越しに王那が大笑いしている。
「でも、本当にありがとうございます。オレからも何か—————」
バサッ!!
響が言い終わる前にとびかかったのは、永久野である。
「ちょっと永久野さん、やめてくださ...!」
押し倒された響は、永久野の異変に気付いた。
彼女は泣いていた。
響を抱きしめたまま。
もともとこのプレゼントは、万が一の時のために用意していたものだった。響が
それに気づいた伊奈瀬、衣央、糸葉は駆け寄り、2人と体を寄せ合った。
響にとって、初めての経験だった。
自分を愛し、自分のために泣いてくれる人。
自分を求めて、競い合ってくれる人たち。
昨日の伊奈瀬のように、本気で怒ってくれる人。あれはちょっと怖かったけど。
そして響は感謝した。
伊奈瀬、永久野、衣央。王那と
たった一度の人生の中で、これほどの仲間に出会えたこと。
それだけではない。
地球が回り続けること。
空や海が存在していること。
人が人として生きていられること。
自分を取り巻く世界のすべてに、これまでにないほどの敬意を表した。
「ありがとう...」
そして響の口から、言葉がこぼれた。水が上から下へと流れるように、ごく自然に。
閉じている響の目からは、いつの間にか涙があふれている。
大好きな人たちと体温を分け合う心地よさに、眠ってしまいそうだ。
自然石に変化が現れたのは、その時だった。
まばゆい光が放たれたのだ。
そして次の瞬間には、1冊の本が自然石の元に置いてあった。
願っていたその光景に、その場にいた誰もが確信した。
「ひっきー、あれ...!」
伊奈瀬の言葉に答えるように、響は涙でぼやけた視界にそれを映す。
「俯瞰の占い帳...!」
5人は急いで駆け寄った。
「ひーくん」
「うん」
永久野の呼びかけに答え、一度俯瞰の書を開く。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
1.入れ替わりの
神を信じて崇める気持ちを大石に込めれば 占い帳が現れるだろう
2.俯瞰の占い帳を使用せよ
思いのままに占い帳を開けば 結びの道具が現れるだろう
3.結びの道具を使用せよ
理想の未来を描き 大石に記された自らの名を貫けば 所有者としての生を終え それを実現できるだろう
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(俯瞰の占い帳を使用せよ...思いのままに...占い帳を開く)
響は後ろにしゃがむ4人と、順番に目を合わせ、そしてうなずき合う。
手を伸ばし、目の前にある占い帳に触れた。
持ってみると厚く、ずっしりとした重さがあった。
そして響は意を決し、思いのままに占い帳を開いた。
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