第一階層・件鬼(6)

 ブオオオオオオオオオオオオオ────ッ!!


 口がさけている。人間の顔から、牛の顔のつけねの部分までがぱっくり割れて、大きな大きな口になっていた。一面、ギザギザのキバがびっしりと生えている。

 鼻先にある女の顔は、にくしみにゆがんでいた。真っ赤にそまった両目から、血の涙が流れ出ている。

 このフロアの通路は件鬼にはせますぎる。

 それでも、そいつは、まわりの壁や床をバリバリ破壊しながら追いかけてきた。

 フラフラ歩いていたレコード部屋の怪人がくずれる床にまきこまれ、件鬼の口の中に落ちる。

 ボキボキボキッと骨のかみくだかれる音がひびいた。


 わたしとモネちゃんは、わき目もふらずに走りだしていた。

 目指す場所はただひとつ。一番の扉だ。

 階段をかけおりる。

 大理石の扉はその先に、変わらぬようすで存在していた。


 南京錠にある牛のレリーフには、数字の一を表す「α´アルファ」のしるし。

 カギをはずし、大理石の重い扉を、ふたりがかりで開く。上からは、どんどん破壊の音が近づいてきていた。


 扉の中は、せまい小部屋だった。

 部屋の中心には、つぼが置かれている。まるで迷路みたいな幾何学模様。

 モネちゃんが、つぼを指さして言う。

「あれが、ラビュリントスの心臓よ」

「どうしたらいいの?」

「簡単よ」

 モネちゃんは、ニッと笑って言った。

「ぶちこわして」


 わたしがつぼを持ちあげると同時に、岩のドームの天井を突きくずして、件鬼がふってきた。

 血をはきながら怒りの叫びをあげ、こっちに突進してくる。


 でも、わたしのほうが早かった。


 力いっぱい床にたたきつけると、つぼはこなごなにくだけちった。

 中から、血のように真っ赤な液体が飛びちり、床に広がる。

 ラビュリントスが、まるで悲鳴をあげるようにふるえた。

 湖の底がぬける。

 そしてうずまく水が、たちまち件鬼をのみこんだ。

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