中間点D(2)
毎日使っていた通学路から一本はずれただけで、ぜんぜん知らない路地に出た。
住宅街の中をしばらく進むと、マンションの前に、小さな児童公園があったので、なにげなくそこへ入る。
無人の公園のブランコに腰かけて、しばらくぼーっとしていると、学校のほうからチャイムのひびきが聞こえてきた。
朝の会がはじまったんだ。
あせる気持ちがふくらむけど、今から急いでもどうせ間に合わない。
わたしが欠席していることがわかったら、先生からうちに連絡がいくだろう。
そしてお母さんからわたしのスマホに、鬼のように電話がかかってくる。そうなる前に、わたしはスマホの電源を切った。
グレーのハトが一羽、公園をうろうろしている。
わたしは特にやることもなく、ハトの動きをぼんやり目で追っていた。
あのハトはきっと、これから起こることを想像して不安になったりしないんだろうなと思うと、なんだかうらやましかった。
「こらああっ!」
いきなり、後ろからどなられて、わたしはすくみあがった。
ハトがブワッと羽音をたてて飛んでゆく。
ふりむくと、大きな犬を連れた年配のおじさんが、路地をこちらへ向かってくるところだった。
「そこで何やっとるか。学校はどうした! んん?」
怖くなったわたしは、ブランコからとびおりて走りだした。
その背中に、また、どなり声があびせられる。
「学校に連絡するからな! 勉強もせんで遊んでばかりいるような、なーんも苦労を知らん、おまえみたいな子供はなあ! ロクな大人になれんからな!」
わたしはまっすぐ走って逃げた。
おじさんの姿が完全に見えなくなってから、なにか言いかえしてやりたい気持ちがわいてきたけれど、もちろん、それではおそすぎた。
昼間の街に、子供がいていい場所なんてない。
わたしは人目をさけ、学校の裏手にある山のほうへとむかった。
二年生の遠足で行った、暮田神社のある山だ。
どんよりしたわたしの心とは反対に、空は快晴だった。歩いていると、すぐに汗だくになってしまう。
水筒の麦茶を飲みながら、わたしは歩きつづけた。
遠足で通った登山道を見つけて、そこへはいりこむと、木陰のおかげでぐっとすずしくなった。
人の気配もない。
ようやく、ほっとひと息つけた。
小一時間ほどで、山頂に着いた。
二年のときはけっこうきつい道だった気がしたのに、六年生のいま登ってみると、ぜんぜん大したことのない道で、なんだかひょうしぬけしてしまった。
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