第二階層・レコード部屋の怪人(6)
わたしをかばうようにして、モネちゃんが前に出た。
「おひさしぶりね、
怪人が足を止める。
どうやらそれが、峰背家最後の当主だった、彼の名前らしかった。
怪人がモネちゃんに答えることはなかった。
かわりに肉切り包丁をふりあげると、大またでこちらへむかってくる。
「走って!」
モネちゃんに手を引かれ、わたしは駆けだした。
「さっき、ちょうどいいぬけ道を見つけたの。あの図体なら、ぜったいに通れないわ。ついてきて!」
後ろから、ドスンドスンと足音が追いかけてくる。意外と足が速い。
しばらく走ると、廊下が行き止まりになっていた。いや……よく見たら、壁の下のほうに、換気用の小窓みたいなものがある。
モネちゃんはトランクをそこへ投げこむと、自分もそこへすべりこんだ。
続いて頭をつっこんだわたしを、モネちゃんが引っぱってくれる。
そこは、倉庫のような部屋だった。
金属のたなに、シルクの布でおおわれた箱型のものが、いくつもならべられている。
わたしが立ちあがるのに数秒おくれて、怪人の腕が、小窓から飛びだしてきた。
あわてて飛びのいたわたしの、足があった場所を、毛むくじゃらの太い指がまさぐり、ガリガリゆかを引っかいた。
だけど、どうやっても自分にはその小窓を抜けることができないって気づいたんだろう。
フウフウあらい息をつきながら腕を引っこめた怪人は、地ひびきのような足音をたてながら、遠ざかっていった。
ほっとする間もなく、モネちゃんに肩をたたかれる。
「遠回りして、ドアから入ってくる気よ。その前に逃げましょう」
「う、うん」
歩きだしたわたしのひじが、ぐうぜん、箱のひとつにかけられた布をひっかけた。
布がするりと落ちる。
目に飛びこんできたのは、ガイコツに皮をはったような顔だった。
わたしは思わずキャッと悲鳴をあげ、立ちすくんでしまう。
布の下にかくされていたのは、四角いガラスケースだった。
その中に、カラカラにひからびて流木みたいになった、生き物のミイラがかざられている。顔はサルのようで、首から下はひづめのある四本足だった。
(件の……ミイラ……?)
拝田くんは、妖怪のミイラなんて作りものだと言っていた。
これもきっと、動物の骨や皮を組み合わせて作ったものなんだろう。
……だとしても、じゅうぶん気持ち悪いけど。
「柚子さん」
モネちゃんにうながされて、わたしはまた歩きだそうとした。
だけどそのとき、ミイラの首のあたりに、ふと目がとまってしまったんだ。
動物のキャラクターがついたヘアゴムで、頭の毛がまとめてある。
その意味に気づいたとたん、わたしは電気を流されたみたいに立ちすくんでしまった。
抱いていた紙箱がずり落ちる。
床に落としたときのいきおいで、紙箱からレコードが飛びだし、転がりはじめた。
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