中間点C(3)
「うわさといえば、もっと過激なのもあってさ」
と、横から口をはさんできたのは拝田くんだ。
「人間の首をちょん切って、牛の胴体につないで、むりやり件にしたてようとしてた、って話」
「うええええ」
なにそれ。怖すぎる。
わたしがどん引きしているのがわかったのか、拝田くんのおじいさんが、なだめるように言った。
「それこそ、無責任なうわさだよ。いくら田舎とはいえ、文明開化の明治の世で、そんな
「えー……。それはそれで、気持ち悪いです」
「いや、実際、昔はよくあったっぽいんだよ。剥製のサルを他の動物の骨やウロコで加工して、河童とか、人魚とか、鬼のミイラを作るみたいなの」
拝田くんが楽しそうに言った。それを聞いて、おじいさんもウンウンとうなずいている。
このふたり……もしかして、家でいつもこんな話ばっかりしてるのかな。なんか帰りたくなってきた。
と、そこで、おじいさんの声が急に低くなった。
「……なんて、うわさですんでいるうちはよかったんだがね」
「な、なにかあったんですか」
「うむ。ある晩、峰背の若い当主がねえ……」
と、たっぷりともったいをつけてから、
「……肉切り包丁を持ちだして、屋敷にいた全員の首をはねて殺してしまったというんだな。たったひと晩のうちに、親族も、住みこみの使用人も、ひとり残らず」
「うえっ」
「おまけにその当主自身も、自分で自分の首をかき切って死んでしまった。事件直後の屋敷は、そりゃあ
「な、なんで、そんなこと」
「そこで、さっきのうわさが出てくるわけだ。峰背家は、ついに、自分たちの力で件を生み出すことに成功した。だが、その件の予言があまりにもおそろしいものだったせいで、峰背の当主は絶望し、死を選んでしまった……周囲の人たちは、そんなふうに考えたんだ」
おじいさんが、骨ばった細いうでを組む。
「実際、峰背が持っていた企業のビルや工場は、その後の戦争でほとんど灰になってしまった。それは決して件の予言が当たったわけではなく、単に歴史的な必然だったにすぎないと思うがね」
と、話を終えたおじいさんに代わって、またもや拝田くんが身を乗りだしてきた。
「その、峰背の当主が自殺したっていうのが、自分のレコード盤コレクションを保管してた部屋らしくてさ。廃墟になった屋敷のレコード部屋に入ると、死んだ当主の幽霊が現れて、首をちょん切られるっていう話が伝わってるんだ。『レコード部屋の首切り怪人』っていうんだぜ。けっこう、怖いだろ」
それを聞いたら、またお腹が痛くなってきた。
そんなおばけ、ぜったいに遭遇したくない。
血の気のひいたわたしを見て、拝田くんがおかしそうに笑う。
「そんな顔しなくても大丈夫だって。峰背家の屋敷なんて、とっくの昔になくなってるんだからさ」
ところが、ぜんぜん大丈夫じゃないんだな、これが。
今はもう、この町に牧場なんてない。
それでも昨日、わたしたちはラビュリントスの一部になった牧場に迷いこんだし、うしむしにおそわれた。
じゃあ……今日は?
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