〈3〉スキルの性能と幸せなキス
「オレを、ハートアイコンが浮上した奴らにブチ込んで欲しい」
しゃっ!ヘッドショットきめてやるんだぜ!
将希はボブの口調を、人知れず脳内で真似ていた。
「ちなみにオレに込められている銃弾は通称〈BL弾〉、これは女神がこまめに支給してくれるもので自動で補充されていく。そしてこれを撃ち込まれちまった野郎共は、男限定の恋愛フラグが立ってしまい…精神がボーイズラブに支配される」
―――?
「単体の場合は効果が出せない、だからできるだけたくさんの野郎に撃ち込む事をおすすめするんだぜ。数が多ければ多いほど、三角関係フラグ、NTRフラグ、ハーレムフラグ等のたくさんのBL展開が期待出来る」
将希は表情を引き締めながら「怖いなー嫌だなー」と、某怪談師のようにボブの語りに対して不可解さが増していく。
「男同士で〈幸せなキス〉が始まったら浸蝕完了だ、そいつらはもう二度と戦闘意欲が湧かなくなる。好きな野郎以外見えなくなっちまうんだからな、こうする事により誰も傷つけずに勝つ!」
「え、いや、けどそれ…まさか男以外に使えないとかないよな」
「ああ…女に対しては、無力なスキルだぜ」
「ちょっとティファヌン呼び出して。もう帰りたい」
ボブが肩をすくめて苦笑した、肩も顔もどこにあるかはわからない。
「まあ待てってショウキ、誰も一人で戦えなんて言ってねぇだろ?この世界にいる女神に導かれし仲間達を探すんだ」
ああ、全然やる気をださないっていう勇者の事?
それ以外にもまだいるんだっけ。
「でも道中はどうすんだよ、雌のモンスターとの遭遇を含めて俺の拳だけじゃしんどいだろ。はよサブウェポン寄越せや」
将希は苛立ちを覚えながら、右手で喋るボブを睨んだ。
「フッ…実はオレさ、ティファヌンに導かれ者がどこにいるかっていうのがわかっちまうんだ」
「だからなんだ、簡潔に話せ」
オラつき出す将希。
「おいおいブラザー、まずはクールになろうぜ。探し出せれば、そいつらめちゃくちゃ強いから。戦闘自体…いや魔王自体も実際は余裕なんだよ」
「じゃあ俺いらんくね?」
「いやいや、そこにショウキが必要だから女神が捻じ込もうと思ったんだろ?ひとまず言える事は、仲間同士でめちゃくちゃ仲が悪いってこと!」
得意げな様子でボブは饒舌に喋り続ける。
将希は溜息をついた。
「なんか面倒くせー、可愛い子いなかったらブチ殺すぞ」
「まったく、発言がいちいち穏やかじゃないぜ。ま、そんな感じ。だからナビゲートは任せてくれよ。ちなみにこの付近で一番近くにいるのは…」
「ていうかボブってさぁ…たしか至近距離用の銃だよな?こっからモンスターまで遠くない?あと何発撃てるわけ?」
将希は最近ハマっていたガンアクションゲームからの知識を突然ひけらかす。
そしてなんだか尿意を催してきた。なのでさっさと済ませてほしいと思い、話を遮る。そんな将希に「チッチッチ」と舌を鳴らすボブ。
え、舌?
「ここは剣と魔法の異世界だぜ?それに〈BL弾〉はハートアイコンに引き寄せられる性質を持つ。射撃の腕に自身がなくても、百発百中なんだ。弾は自動で装填されるクールな仕様だ。弾数は、多分150発ぐらいは余裕で撃てる」
アバウトな残弾数を伝えられながら、将希は頷いた。
撃ち方はなんとなくわかる、ラーメン屋によく置いてあるアウトロー系漫画で拝見した事がある。デリンジャーの撃鉄を親指で下げる、そして沼水をかけ合う仲睦まじいゴブリン達へと41口径のボブを手向けた。それと同時に穏やかな声で囁かれる。
「そんじゃま、やろうぜ…初仕事だ。オレの安全装置はいつだって外れてる」
ボブ、人はそれを――
――あたおかって言うんだぜ。
とりあえず面倒くせぇから、秒で終わらせるか。
将希は気怠い感情に苛まれながら表情を引き締める。
そしてトリガーに指を掛け、ついに撃つ――
バァン!
想像よりも大きな音が鼓膜を震わせた。
ゴブリン達がその騒音を耳にして注視した。
縦2連の銃口から、流れ星のような閃光が真っ直ぐと放たれ伸びていく。
1匹のオスゴブリンの眉間にそれが命中した、アイコンが消滅する。しかし無傷。倒れる事もなく、自身の体をパタパタと手で触れて確認しながら首を傾げていた。
「―――グギュァァァアアッ!!!」
瞬間、ゴブリン達の甲高く怒りを滲ませた咆哮が轟く。
それぞれ石斧や棍棒を手にすると、泥水の飛沫をあげながら沼地から全力疾走で駈けてきた。大きく開かれた口からは鋭い鮫歯、ギラついたイエローアイが憎悪で染まっていく。
「来るぜショウキ!!ちなみにゴブリンっつってもこの世界のモンスターは割とつえぇ!だからやれる前に、どんどん撃てぇーーーー!!」
ボブは叫ぶとBL弾を自動装填していく、将希は矢継ぎ早にどんどん撃ち続けた。
すると撃ち込まれたオスのゴブリンはその場で足を止める。
鼻孔をひくつかせ、周囲を見回し始めた。
それからオス同士がぎこちなく寄り添い始め、カップル成立した者達からは〈幸せなキス〉の気配が漂いはじめる。
――で?
しかし、メスのゴブリンは全く止まらない。
残りは4匹!それが爆走しながら向かってきている。
一糸纏わぬ三頭身、雌は艶めかしい豊満ボディーを上下に揺らして木立に潜む将希めがけて絶賛進行中であった。
そう、撃ち込めと言われたわけであるが。
雌への対処の仕方については、まだなんの解決策も設けられていない。
結局そのツヨツヨな仲間がいない場合は、どうすれば――
「あいつら何食うの?」
「人肉!」
絶句。
「で、策は」
聞きながらも、将希は腰を抜かす事もなく本能的にその場から既に走り出していた。
ヤンキー同士の抗争で、多勢に追われるという危機的状況には慣れている。ただ、しくじったら確実に死ぬという恐怖に声が震えた。
「もちろん考えてた!このまま進んで〈浄化の泉〉を目指すんだ!滝の音が聞こえてくるはずだ!そしたらそこに飛び込むんだぜ!」
鬱蒼とした自身よりも背の高い草を掻き分ける。
頬に浅い切り傷を作りながら、ボブに言われるまま将希は無言で走り続けた。
背後から雌ゴブリンの荒い息遣いが迫る。ここでコケるなんて間抜けは、死あるのみ。
――トボボボボ!
これは、滝の音だ。
地面を蹴り上げると脳内で逃走ギアを加速させる。
その瞬間、景色が一変した。
背高のっぽの草むらを飛び出すと、目の前に広がったのは青い空に白い雲。
森の先にある、街までもが見渡せる――
将希は勢い余って、心の準備もないまま崖の上から真下へダイブする形となった。
「キュオオォォォン!」
雌ゴブリンの一匹が叫びながら、将希の腰に飛びついた。
将希は落下しながら、噛みつこうとする凶悪な口に咄嗟に右手のボブを突っ込む。
「こいつはクセェ!たまんねぇスメルだぜ!」
ボブが失笑混じりに嗚咽した。
やべえ、漏れそう。
死の狭間で将希はそんな事を考える。
ボブが雌ゴブリンの喉奥を声で震わせた、将希は無我夢中で激鉄を降下させてトリガーを弾いた。しかし与えられたのは、爆音と軽度の衝撃波。
「ウッ…ギュッ」
だが雌ゴブリンは咽頭を刺激され、勢いよく吐瀉物を吐き散らす。
将希もボブも、顔面に白濁色のゲロシャワーを受け「うっ」と口を噤んでそのまま滝壺に沈んでしまった。
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