セッション85 偃月

「……ビキニアーマーを回避する為に重い武器を選ぶってのも手だな」


 であれば、両手剣や斧槍を選択するべきか。あるいは鬼らしく金棒というのもアリだな。

 性転換――錬金術師を目指すなら武器は何になるだろう。本か杖か。あるいは武器には拘らないのか。


「ん? こいつは?」


 ふとある武器が目に付いた。

 それは槍の棚にあった。商品名の欄には『バルザイの偃月刀えんげつとう』と書かれている。

 偃月刀。中国における大刀の一種。長い柄の先に湾曲した刃を取り付けたもので、刃は幅広で大きい。日本でいう薙刀に相当する武器だ。


「おう、嬢ちゃん。それに興味があるのかい?」


 偃月刀をまじまじと見ていたら店主が話し掛けてきた。


「あ、ああ……。バルザイって何だろうと思ってな……」


 どうも嬢ちゃん呼ばわりされるのにはまだ慣れない。

 さっきも言ったが、中身はアラサーだからな、僕。


「バルザイってのは大昔の賢者の名前だな。いや、称号だったか? どっちだったかな……? ともかくこの地上じゃない、異界の賢者だったってのは覚えているんだが」

「大昔の異界の賢者ねえ……」

「まあいいや、そんなのは。それよりこいつのギミックよ。こいつは面白い武器でな。刃の根元に宝玉があるだろう? ここに魔力を通してみな」

「こうか?」


 言われ、軽く魔力を指先から放出する。すると、偃月刀が柄の半ばで折れた。

 否、折れたのではない。外れたのだ。魔力で二つの柄を組み合わせていたのだ。柄が短くなった偃月刀はまさしく、


「曲刀になった!」

「必要時には槍にも剣にもなるって訳だ」


 成程、偃月刀でもあり曲刀でもあるという事か。通常時は偃月刀のリーチで戦い、乱戦時には曲刀に変えて小回りを得られると。便利だ。


「――気に入った。これを買う」

「毎度あり」


 店主に代金を渡し、改めて偃月刀を手にする。

 いやはや、よもや可変武器を入手出来るとは。興奮を抑えられないな。男の子はこういうの大好きだからなあ。良い買い物をしたものだ。


「藍兎さん、決まりましたか?」

「ああ。そっちはどうだ?」

「ええ、こちらも」


 ステファが新品の盾を掲げる。表面に五芒星が描かれた長方形の盾スクトゥムだ。五芒星の中央には目の意匠があり、魔術的な雰囲気を醸し出している。


「そちらは槍ですね。それを選んだのであれば、転職先も決まりましたか」

「槍じゃなくて偃月刀なんだが……まあどちらにしても転職先は同じだな」

「では、地球神達の神殿に行きましょうか。案内します」

「あいよ」

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