第39話 更に揺れる初恋

「はぁ~……」

 私はバルコニーで洗濯物を干しながら、ボーッとしていた。

 昨日ジャンに空の散歩に連れてってもらって、あんなところで2人でイチャイチャして……。ジャン、カッコ良かったなぁ。レオンとはまた違った、正面から包み込んでくれる、そんな感じだ。


 あぁでも私はレオンのことが好き。


 ん? レオンのこと……“も”、好き?

 ジャンのことも……好き?


 うわぁ、まさかこんな事態になるなんて思ってなかったぁ。2人ともちょっと前までただイケメンで癒やされる~、くらいにしか思ってなかったはずなのに。


「はぁ……」

「さくら?」

 ため息をついた瞬間聞こえたのは、ジェイミの声だった。

 洗濯の手を止めて振り返ると、ジェイミが室内からこちらを覗き込んでいた。


「あ、ジェイミ。今日お休み?」

「うん、休み~。さくらは? って、洗濯全然進んでないね、手伝うよ」

 ジェイミはそう言ってすぐに洗濯物を干し始める。


「あぁ、ごめんありがとう。うん、私も訓練所はお休み」

「そっか。さくら、また元気ないねぇ。嫌だったら言わなくていいんだけど、何かあった?」

 あぁ、ジェイミにもやっぱり心配かけてたのか……。前回のは言えるけど、今回の件は……言えない……!


 私はとりあえず前回のストーカーの件を話すことにした。

「うわぁぁぁ、さくらがそんなやつに付きまとわれてたなんて……しかもレオンに先を越されたぁ~!」

 ジェイミはなぜか悔しそうである。


「ジェイミって、レオンのこと嫌いなの?」

 私はずっと思っていた疑問を彼へとぶつける。

「ううん、嫌いじゃないよ?」

「そうなの? いっつも喧嘩してるから……」

「あはは、そういうことか。あれは喧嘩してるんじゃなくて、さくらを取り合ってるの」

「何で!?」


「だってさくら、レオンといる時が一番顔が赤くなる気がするから……」

 ジェイミはそう言ってふてくされた顔をする。

「えっ、そ、そうかな!?」

 ジェイミってまさか、嫉妬してるの? っていうかふてくされてるジェイミ、可愛いんだけど……。


「そうだよー。あ、でも最近はジャンにも結構赤くなる気がする」

「そ、そんなことないと思うけど!?」

 ジェイミ、鋭すぎない?


「そんなことあるよ。ねぇさくら、僕は?」

 ジェイミはそう言ってグッと顔を近付けてくる。

「だ、だから顔近いって……! 私、赤くなってるでしょ? 今!」

「あはは、うん、なってる。可愛い」

 ジェイミは嬉しそうに笑う。もう、ジェイミ何それ。可愛いのはそっちだからね?


「ジェイミの方が可愛いもん……」

「あー、さくらそういうこと言う? もうお仕置きだな」

「お仕置き!?」

 私が驚く間もなく、ジェイミは私を抱きしめた。


「えと、ジェイミ……あの……」

 パニックである。

「さくら、僕だって男だからね?」

「わ、わかってるよぅ……意識、飛びそう」

「ダメだよさくら、気絶禁止」

「ええ、そんなこと言われても……!」

「気絶しないで、ちゃんと僕を感じて。ちゃんと僕を男として、さくらの頭の中に入れておいて」

「入ってる、入ってるよ!」

 可愛い顔をしていても、可愛いことを言っても、私よりも背が高くて武闘家な彼はガッチリと筋肉質で、私をすっぽり包み込んでくる。


「あー、まだこの辺にレオンとジャンがいるなぁ」

 ジェイミはそう言って私のこめかみ辺りを指でグリグリと押した。

「い、いないってば……!」

「ホント?」

「ホント!」

「やったぁ、さくら大好きっ!」

「!?」


 そのトドメの一撃に、私は気絶した。


「わ、さくら! んー、まぁでも頑張った方かぁ……」

 ジェイミは私をバルコニーへ寝かせると、残りの洗濯物を干して、私を再び抱き上げ室内へと戻っていった。


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