第37話 初恋の予感
「アダン君がさくらさんのストーカー!?」
これにはアロイス先生もビックリ。
っていうか私名前も今知ったんだけど、そのアダンって人がストーカーだったの!?
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
アダンはレオンのすさまじい気迫からか、ただひたすらに謝っている。
そんな彼へ、レオンが更に唸る。
「これ以上さくらに怖い思いさせてみろ。てめぇの顔面の骨が粉々になるまで殴ってやる」
その吠える様な気迫は、クラン名にもある黒狼そのものだった。
「も、もうしません……! 本当にすみませんでした……!」
アダンは涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら必死に謝っていた。
「二度とさくらに近付くんじゃねぇ。分かったかクズ野郎」
「はぃ……はぃぃ……」
レオンは立ち上がるとアダンを壁へと蹴り飛ばし、私とアロイス先生の元へと歩み寄る。
「帰んぞ」
そう短く言った彼のトーンも顔の表情も、いつもの彼へと戻っていた。
「あ、あの、レオン……何で彼だって分かったの?」
私は遠慮気味に尋ねる。
「今朝お前と別れた後、少し離れたところで張ってたらあのフードの男がフードを脱ぎながらここに入っていったからな。生徒の誰かなのは確定した。それだけだ」
「ええ!? それだけって……こんな50人くらいいるのに……」
私がそう驚いていると、アロイス先生が補足をしてくれる。
「レオンさんはそのストーカーという男の魔力や気配をしっかりと覚えていたのですね。そう言ったことが出来る強者にとっては、ダミーが50人いても1000人いても関係ないのですよ」
レオンは軽くうなずいた。そしてなぜか周りから沸き起こる拍手。
「レオン……すごすぎでは……?」
私も一緒になって拍手した。
⸺⸺
その後アロイス先生は他の生徒を返して、アダンに事情聴取をしてくれていた。
その間私とレオンは受付のソファに並んで座って待つ。
ドッドッドッドッとかつてない音を立てる私の心臓。隣にいるレオンにまで聞こえちゃうんじゃないかってくらい、私の耳はドキドキ音でいっぱいになっている。
私……人生で初めて、恋、しちゃったかも……。
イケメンだとか、イケボだとか、王子様だとか、そんなことは今はどうでも良くて。彼の私のために本気で怒る言動とか、憎まれ口の裏からにじみ出てくる彼の気遣いに、完全に惚れてしまっていた。
やがてアロイス先生が受付へと顔を出す。
「お待たせしました。どうやら彼は、さくらさんに近付くために訓練所通いを始めたようです」
「ええ……」
私にそんな人がいるなんてビックリなんですけど。
「通りすがりに一目惚れして、あなたがここに通っている事を知り、魔法に何の興味もないのに申し込んできたそうです。それ以来、ずっとあなたをつけ回していたと白状しました。彼は除名処分とし、以後この訓練所には出入り禁止としましたので、どうかご安心いただければと思います」
「そうでしたか……なんだかご迷惑おかけしました」
私は謝りはぁっとため息をつく。
「いえいえ、こちらこそ。僕も全力でサポートしますので、どうかこれにめげずに最後まで通ってくださいね」
「はい、もちろんです! 最後までよろしくお願いします」
先生に別れを告げ、レオンと2人で訓練所を後にした。
帰りの道中で、ドキドキする心臓を押さえながら、なんとか声を絞り出す。
「レオン、ありがとう」
「ん」
その素っ気ない感じの短い返事も、結構好きだぁ……。
「ねぇレオン……」
「ん?」
「私にも今度あの床ドンして?」
「……は!?」
「あ、でも硬い床は痛いからカーペットの上とかソファとか柔らかい所に……」
「誰もするって言ってねぇだろうが!」
レオンは急に早歩きでスタスタと行ってしまう。
「あぁ、レオン~! 床がダメなら壁でもいいの~! 待ってぇ!」
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