Count 9 帰って来た大魔王

 ……まあ、他の方法もなくはない。あまりお勧めじゃないけどな。

「えっ、あるの? じゃあこれで一緒に帰れるんだよね!」

 だから近すぎだって! そのためには巫子芝にも迷惑をかけることになってしまうんだが、それでもい「うん、いいよ」即答かよ! まず一度オレの話を聞こう? な?


 他の方法というのは、オレが【きみなぐ!】の正式な管理者になることだ。

 今のオレは魔子マミを汲み上げるポンプを動かすための人間電池ダイナモだ。クソオヤジのかわりに【きみなぐ!】のキーカードを預かっているだけのバイト警備員だ。そもそもルールに口を出す権限がない。本来ならマニュアルも見れないはずなのだが、そこはそれ放置してあるから勝手に見ていた。そのおかげでこの方法を知ったわけだが。


 正式な管理者になればオレもリミッターを外せて、存分に魔法が使えるようになる。ただしそれは調停者バランサーとしての責務を負うことでもある。魔法使いの強大な力はそのために存在し、母さんも調停者バランサーとして世界中を飛び回っている。

 そして巫子芝にはオレのパートナーとして一緒に調停者バランサーになってもらう必要があ「それだけ? 何も問題なし、ノープロブレムだよ!」いやいや軽すぎないか?

「それに一緒に世界を回れるだなんて、し、新婚旅行みたい。キャ〜!」

 そんな甘々なもんじゃ……まあいいか。喜んでいるところに水を差すのもな。最後はオレが巫子芝を守ればいいだけだ。

 だったら急ごう。色々と邪魔が入る前に。


 オレたちは回廊に出て、東の魔法塔に向かう。そこにはメインの導路盤があり、そこで管理者の書き換えをする必要があるからだ。

 マニュアルによれば登録を上書きして、上位の魔法使いの承認を取り付けなければならない。承認前までを先に済ませて、外に定期連絡に出ている月霊姫に連絡を取って、そこから……

「おいおい、なんでお前がそんな真似をする必要がある? お前はこれまで通り、魔子マミを汲み上げるポンプの役目を果たしていればいい。そしてその魔子マミを使うのは吾輩だ。分かっているだろう?」

 回廊の円柱エンタシスの陰から、行く手を塞ぐように現れた髭面、オレと同じ【魔王】の格好をした男が言う。

「えっ? 円東寺クン、この人だれ?」

 やっぱりアンタか、クソオヤジ。今ごろ何しに来やがった!

「パパさん? 円東寺クンの?」

 ああ、認めたくはないがな。コイツの名前は甲茂利麒麟人こうもりきりんど。【きみなぐ!】の管理者を放棄したミスター無責任。全ての騒動の元凶。オレをこんな体にした悪魔……そしてオレたちが倒すべきリアル側のラスボスだ。

 

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