しれっと大仕事

「シャアアァッ!!」



「見事なピッチング、雄叫びもあげました、前村!!マーチンを三振に仕留めて、初回を無失点に抑えています!!」



「素晴らしいボールでしたね!今のボールで仕留められたのは次の対戦でも生きてきますよ」



普段はどちらかというと、クールに淡々と投げている印象の前村が初回を終えたところで、ベンチに向かって派手なガッツポーズ。



それに呼応するようにチームメイト達もいつになく盛り上がりながらナインを出迎えた。



「よっしゃあぁっ!一気に先制いくぜぇっ!!」



俺のおケツをタッチすることを忘れずに、平柳も勢いよくベンチに戻り、前村君とグータッチをすると、グラブとキャップを外して、すぐに防具を着用する。



バッティンググローブもはめて、指をくにくにさせながら感触を確かめ、ネクストに向かっていく。


俺も1口ドリンクを飲んで後を追った。



「前回はやられましたからね。しっかりお返ししないと」



「ああ、もちろんさ。頼むぜ平柳君」



ロサンゼルスの先発は第3戦で前村と投げ合ったミラー。


平均95マイルのフォーシームを武器に、ツーシーム、ナックルカーブ、チェンジアップ、スライダーと多彩な持ち球。


シーズン夏場に離脱しながらも14勝をマークし、第3戦でもいいピッチングを見せた。


全体のバランスがいい、安定感のあるピッチャーだ。



「投球練習が終わりまして1回裏、シャーロットの攻撃ですが……早くもウェーブが起こりました。大変な盛り上がり。平柳がそんな中、バッターボックスに向かっていきます」



「ミラーは非常にクレバーなピッチャーですから、コントロールを乱して自分から崩れることはほとんどありませんのでね。初球から打てるボールはどんどん狙っていっていいと思いますよ」



初回に点を取ろうとするなら、平柳の出塁は必須である。試合前のミーティングでは、カウントを取りに来るファストボールをどんどん勇気を持って振っていこうと、そういう話し合いになった。



スカァンッ!!



とはいえ、初回先頭バッターである彼が、見逃せば高めに外れたボールをひっぱたいたのを見た時は、なかなかビビりましたね。



スコーンと気持ち良い打球を残して、平柳君は打球の行方はあまり確認しないまま、1塁に走り出していった。



「初球打ちました。レフトに上がった!打球は伸びていく、伸びていく!尚もレフトは下がっていく!!………入りました、入りました!!平柳の先頭バッターホームランです!!」



「うおほっ!!」



ワンバンでフェンスに当たるツーベースくらいの感覚だったのだろうが、全速力で1塁ベースを回った平柳君がびっくりしながら当たりをキョロキョロ。


2塁の審判おじさんに、おもいっきりの日本語で、入った?入った?と、確認するくらい予想外だったようだ。



「フェーイ!!」



俺も正直めちゃくちゃ戸惑ったので、そんな風な声を出すしかなかった。



「新井さーん。フェーイ!!よいしょー!」



ホームインした平柳君と一緒にジャンプをして胸を突き合わし、着地と同時に膝下でタッチを交わす。



ピッと気合いを入れ直し、打席に向かう間も、バーンズやクリスタンテ、ザム君達の盛り上がる声がずっと響いていた。









ビシュッ!



ギュルルル!!



ズバンッ!



「ストラック、アウッ!」



「これは入っていました!クリスタンテは見逃し三振で3アウトチェンジ。しかし、この回は、平柳の見事なレフト方向への先頭バッターホームランでシャーロットが先制に成功しています!!


そのシーンをもう1度見て頂きましょう。……打ったのはフォーシームでしょうか」



「フォーシームですね。キャッチャーの構えとはちょっと違いましたけど。


真ん中高めのややボール気味なところではありましたけど、見事に力負けせずに捉えましたよね。平柳といえば引っ張りのバッティングが得意なイメージですけど、逆方向にホームランを打てるというのは、相当状態が良いんでしょうね。


ロサンゼルスとしては、まあソロホームランだったので、ミラーも切り替えて次の3人はしっかり打ち取りましたから、ここからでしょうかね」






カキッ!!



「いい当たり!ジャンプー!!捕りました!ショート平柳、ナイスプレイ!また彼でスタジアムが沸きます!5番ガルシアの打球でした。1アウトです!」



ロサンゼルス打線もなかなか前村君を研究してきているように思える。迷いなくファーストストライクの真っ直ぐを狙いに来ているんですかね。



今のショートライナーでロンギーもそれに気付いたのだろうか。6番バッターには大きく曲がるスライダーを初球に持ってきて様子を伺い、2球目はスプリットで見逃しのストライクを取った。



そして3球目。アウトコースの真っ直ぐはしっかりスイングに来てファウルボール。 真ん中低めのスプリットにバットを止められた後に……。



カァンッ!!



「低めスプリットを打って、バーンズが追いますが……破りました!打ったパーシブは2塁へいく!ツーベース!!1アウトから変化球を打たれました前村!」



「前のガルシアもそうでしたが、速いボール狙いなのかなというところで追い込まれていましたけど、2球続いたスプリットを上手く拾いましたね。


こういう対応力と長打にするバッティングはやはりロサンゼルスのスタメン張っているレベルの選手ですよね。シーズンでも3割打っているバッターですから、ちょっと配球が難しくなるかも分かりませんよ」

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