何故それをシーズン中に出来ないのか。
センターの選手がこちらに背中を向けるようにしながら走っていき、ギリギリのところで転がるようにしながらダイビングしたのだけは見えた。
でも、捕った!捕りました!ファインプレーです!
みたいな空気感ではなかったので、俺としてはとにかく走るだけでしたね。
特に今日は、みのりんに双子ちゃんに両親と妹とお隣さんも一緒になって、1塁側のラウンジ席で観戦していらっしゃいますから。
打球の行方がどうなっているとか、レフトやセンターの選手がどのくらい追いかけているとは知らん。
3塁コーチおじさんがグルグル腕を回しているのだけを認識していればそれで十分ですわね。
つまりは3塁ベースもバシッと蹴りまして、ホームに突入したわけであります。
中継を介して返ってきたボールをキャッチャーが掴む。そのキャッチャーの足元から出来るだけ遠い位置にヘッスラをかまし、左手を伸ばす。
そうしようと瞬間には、もらった!という感触でしたね。
キャッチャーのミットは俺の背中。なかなか凄まじいと思われる勢いで通過すると、球審が大きく腕を横に伸ばした。
「「よっしゃー!!」」
「「シャー!!」」
立ち上がるやバーンズと激しくハイタッチ。その後ろにいたクリスタンテと腕を突き合わせるようにし、俺は雄叫びを上げながらベンチに突入していった。
「見事なバッティングと大激走!新井がシェンクフィールドからランニングホームラン!
魂の疾走で同点に追い付いて見せました!今、ベンチのチームメイトからも手荒い歓迎!スタンドからも、物凄い声援です」
「これ、打ったのはチェンジアップだと思うんですが、新井は待っていましたよね。このボールを。前の打席に103マイルのボールを引っ張りながらミートしていました。
それをやはり、ロサンゼルスのキャッチャー、ワシントンの頭にやっぱりありましたよね」
「なるほど。また速いボールで勝負するのは危険と判断したわけですね」
「その読みもさることながら、チェンジアップに張るセンス。ひと振りで結果に繋げるバッティングの精度というのは本当に素晴らしいですよ。
ランニングホームランになったのは幸運と頑張りがありましたけど、チームに勇気をもたらしましたね」
「明らかに先ほどまでとは空気が変わったグリーンオブシャーロット。打席には3番のバーンズです。……いい当たりだ!レフト前に抜けていきます!新井のホームランの後、バーンズが続きました」
こうなると一気に追い越せというムードになるのだが、今年のサイ・ヤング賞を確定させているピッチャーですから。
ツーシームを低めに、フォーシームを高めにコントロールして、クリスタンテを三振。アンドリュースをセカンドゴロに仕留め、後続を断ったのだった。
投げ合うライバルに呼応するように、ウェブのピッチングも冴え渡った。左右のバッターの膝元に動くボールを制球し、今日の決め球はやはりスライダー。
的を絞らせないロンギーの好リード。
初回はプレッシャーからの固さしかなかった守備陣のお返しとばかりのファインプレーにも助けられ、6回を初回の犠牲フライによる1失点に抑えた。
俺に3打席目が回ろうとしている。
バッターは平柳君。
連続三振食らってますから。そりゃあ初球からいきますわよ。
カキィ!!
100マイルのツーシームをジャストミート。センター前に抜ける打球の前にグラブが差し出される。
シェンクフィールドが信じられない反応。しかし、打球も速い。背面に出したグラブの先に打球が掠め、僅かに方向が変わりながら跳ねた。
それを今度はショートのムーアが飛び付いて押さえ、足を伸ばして座った体勢から1塁に投げた。
「アウッ!!」
平柳君も高速で駆け抜けたが間一髪及ばずアウト。打球は痛烈だったが、シェンクフィールドの執念とムーアの身体能力の高さにヒット1本を奪われてしまった。
「バティセカン。レフトフィールダー、ナンバフォー、トキヒトゥ、アーライ!!」
俺が打席に入ろうとすると、スタンドから手拍子が起こり始め、何かしないといけない気持ちになり集中力が切れてしまった格好になった。
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