スミスとは職人由来成分なんですわ。
素晴らしいスタートではあるが、もちろん相手バッテリーもその動きを想定している。
アウトコースのボールをキャッチャーが掴んで2塁へ。
1、2塁間からグワァーっと走っていく平柳君とベースとの距離がどんどん近付く。そしてもちろんそれ以上のスピードでボールも送られて、ショートの選手が送球を掴んでタッチ。
平柳君のスパイクの裏がベースの縁に当たるのと、そこにグラブが落とされるのはほぼ同時だった。
「セーフ!!」
2塁を主に判定しますおじさんのジャッジ。
「ヘイ、チャレンジ、チャレンジ!」
そのジャッジが下された次の瞬間には、ニューヨークの監督さんがグラウンドに出てきて、審判団に注文をつけたのだった。
審判おじさんがわらわらと集まり、バックネットから出てきたモニターで映像をチェック。なんだかレトロチックな音楽が流れる中のシンキングタイム。
結果は……。
「セーフ!」
判定そのまま。覆らず。
1ボールから試合再開。ニューヨークバッテリーは俺に対しての攻めは、徹底したインコース攻めだった。チャレンジ明けの2球。続けて内側の目一杯のところに投げ込まれてしまい追い込まれる。
そうすると俺は水戸納豆モードにモデルチェンジし、空振りを狙う変化球や高めのストレートになんとかバットを合わせていく。
からしを入れるのか入れないのかの攻めぎ合いだ。
ガキッ!!
ピピーッ!!
カンッ!!
ビッ、ビッ、バスッ!
ガキッ!
……コロコロ。コツーン、バシッ!
パチパチパチ……。
俺の打球がスタンドに飛び込んだり、カメラマン席のフェンスに当たったり。
バーンズの足元に転がり、ゴルフのようなスイングでボールボーイのグラブにホールインワンして、観客から拍手が上がったりした後の7球目。
カキッ!
「打ちました!セカンド正面のゴロです。平柳は3塁に向かいます。1アウト3塁に変わります」
「いいですね。盗塁をサポートして、出来るだけ粘って、最後はしぶとく進塁打ですよ。最高の役割を見せました」
「打率が高いというところで、チームに貢献しているのも当然なんですが、アウトになっとしても、2番らしい繋ぎの役割を果たせるのも、新井の素晴らしいところではないかと思います。
さあ、バッターはバーンズです。……いい当たり!…ああっ、サードライナーでした。2アウトです」
ある意味ドンピシャのタイミングもサードの真正面。インコースのボールに対して、コンパクトにバットを出した最高のバッティングでしたけど。仕方ありませんわね。
クリスタンテ。
1ー1というカウントになり、彼もセンター返しを心掛けたようなコンパクトなスイングだった。
ピッチャーの伸ばしたグラブの先を抜け、飛び付いたショートのグラブを越える、シャーロットに大きな先制点をもたらす1点となった。
野球中継なんかを見ていると、快投乱麻という言葉をたまに耳にします。
快刀乱麻という慣用句をもじったものだと思いますが、本来の意味は複雑な物事をズバズバと解決していくみたいな意味でして。
それを野球的な意味に持っていくにはちょっと無理がある。
初めてこの言葉を聞いた時は、新品の中華包丁を振るって、いつもとは違うスパイスや辛みを加えたマーボー豆腐を作ってる想像をしたものだった。
ですから、俺の中の勝手なイメージだが、どちらかと言えば技巧派寄りピッチングで、相手打線に粘る隙も与えずにあの手この手でコスパ良く切り倒していく感覚。
だから、160キロのストレートを投げるようなピッチャーが王道スタイルで三振の山を築くような時とはちょっと違いますわね。
140キロ台の直球に、スライダー、シンカーやチェンジアップ系のボールをトリッキーに使って省エネで投げている時にこそふさわしいのではと考える。
ちょっとピリッと来るような持ち球や配球が必要。
出来れば風貌も、スマートなイケメンというよりかは、ちょっとヒゲが生えた無精スタイルのピッチャーの方がなんとなく似合いますわね。
ヒゲはまだありませんが、最も快投乱麻という言葉が最も似合うピッチャーは、メジャー全体を見渡しても、このフレッグリン君かもしれませんね。
今日はニューヨーク相手に持ち前のキレとテンポのいいピッチングでの完封勝利だったんですから。
「2勝2敗で迎えたリーグチャンピオンシップの第5戦です。両チーム共にスミスネームのベテラン左腕を送り込んだ試合は、2ー2というスコアで5回に入っていきます。ニューヨークは、7番のエルナンデスからという打順です。
シャーロット先発のヘンリースミスですが、4回までで3安打1四死球3奪三振。2失点。先ほどグリーンに浴びた2ランホームランだけに抑えていっていると言って良いでしょうか」
「そうですね。1、2回はほぼ完璧でした。
左右のバッターのインサイドにフォーシーム、アウトサイドにチェンジアップとスライダーがしっかり決まっていましたが、グリーンに打たれたのはスライダーの抜け球でしたね。悔やまれる1球です」
「球数やポストシーズンでの継投を考えますと、この5回までということになりそうですが……。打って、ショートの横抜けていきました。ニューヨーク、先頭のエルナンデスが出塁します。今日2本目のヒット」
タイミングをしっかり合わされたスイング。外から入って来るボールをミートされて、打球は俺の前でワンバウンドした。
足の速いランナー。左腕のスミス。牽制球は下手ではいが、クイックはあまり速くはない。
思い切りよくいいスタートを切ると、ちょっと2塁で刺すのは難しいかもしれないと考えていた。
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