歴史作家もラクじゃない
坂口 螢火
第1話 「あなたの作品は古いです!」
はじめまして、坂口です!
歴史モノだけを延々書き続けている、物好きな作家です。作品に「忠臣蔵より熱を込めて」「曽我兄弟より熱を込めて」「山中鹿之介と尼子十勇士より熱を込めて」などがあります(あまり売れてませんが……)。ここでは、わたしが長年歴史モノを書き続けて、地味~にショックを受けた出来事を、エッセイでお送りします!
さて、記念すべき第一話目にお話したいのは、つい数か月前に起こった出来事です。当時、わたしはあちこちの出版社に作品を売り込んでまして、ある編集者に言われたのです。
「あなたの作品読んだよ。それで率直な意見なんだけどね、文体が古いんだよね。内容がじゃないよ?言い回しとかがすごく古い。もっと現代的に変えた方がいいと思うんだよね」
「はあ、現代的に?」
「うん。今はさあ、時代劇的なセリフ回しって、若い人はついてこれないし、理解できないよ。現代語に直した方がいいよね」
文体、セリフ回しが古い、と……。
ちなみに、「古い!」と言われたセリフの一例はコレ↓
「これを見よ、これは祖先重来の兜(かぶと)。父上も祖父上も、これと共に戦場に出た」
また、この編集者はこうも言いました。
「セリフの他にも、講談調の文体使ってるでしょ。これもやめた方がいいよね。七十代くらいの人にはウケるかも知んないけどさ、その人たちがいなくなったら、もう誰も読まないよね」
と……。
その一例はコレ↓
「子がいくつになろうが、幼き頃と同じように案ずるのは親の情」
まったくその通りで、わたしは作品の中で「古臭い」文体を使っているのです。現在ではすっかり使われなくなった表現だとは知っているのですが……。編集者から「あなたの作品は古い。現代語に直した方がいい」と言われて、ずいぶん考え込んでしまいました。
かなり考えました。二、三日は頭を抱えましたが、結果、「やっぱり現代語にはしたくない……」という結論に至りました。
わたしの作品の舞台は、鎌倉時代や戦国時代です。その時代の人々のセリフなどを現代語に直したら、どうなるでしょう?例えば……
「これを見なさい。これは我が家に先祖代々伝わっている兜だ。父も祖父も、これをかぶって戦場に出たんだ」
……なんか、重々しさに欠けませんか?
「これを見よ、これは祖先重来の兜(かぶと)」
の方が、おお!鎌倉時代っ!という空気が伝わると思うのですが、どうでしょう?
わたしは、歴史モノはそもそも古い時代を書いているのだから、その時代を感じる言葉を使った方がいいと思うのです。もちろん、難解な古文をそのまま使うのは駄目ですよ?でも、読者がストレスを感じない程度に、歴史モノ独特の言い回しを使う努力を、歴史作家はするべきだと思うんですよ。
もちろん、わたしの文体ではまだまだで、もっと分かりやすくする工夫が必要なのでしょうが――でも、セリフを現代語にするのは駄目です。
それと、もう一つ……。
――時代劇的なセリフ回しって、若い人はついてこれないし、理解できない……?
実は、この言葉を聞いたのは、これが初めてではないのです。今まで幾度か言われました。「麒麟という言葉は、読者には分かんないから使うな」と言われたこともあります。
本当にそうでしょうか?今の若い人は、古い言い回しが理解できないから、現代語に変えなきゃ駄目……?
……それは違う。それは読者を低く見ていると思います。現に、歴史モノではない「北斗の拳」でさえ、ちょくちょく古めかしい言い回しを使っているけれど、「理解できない」なんて意見は聞いたことがありません。むしろカッコいいとさえ言われているのに……。
確かに、歴史モノ初心者で、古い言い回しは難しい、という人はある程度いるでしょう。でも、だからといって
「若い人には理解できないから」
と、現代語にしてしまうのは――これは「言葉狩り」と同じではないですか?
時代劇ならではの言葉を好きな読者は、きっと大勢いるはずです。その人たちのために、作者は言葉を滅ぼしてはならないと思うのです。出版界に「現代語に直した方がいい」という人が多い中、
――このままでは、時代劇の言葉は滅びるのではないか?
と、わたしは秘かに恐れています。
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