第14話1日目 天職適性の儀
天職適性の儀は基本的には取り仕切る司祭と本人のみで行われ、結果も本人と両親にのみ伝えられる。ただしS級天職はその限りでなく、S級天職者と司祭が確認した段階で、広く喧伝する仕組みになっていた。休みの日の9時からとなっている儀式には、大体はその週の内に誕生日を迎えた15才の少年少女がやってきていたが、必ずその時でなくてはならないという事も無く、15才を超えて病気やケガなどですぐには教会に来られない者も年齢さえ条件を満たせばいつでも儀式を受ける事が出来た。
現実問題として、田舎には教会も無く、司祭もいない所もあり、そういった村には巡回で正教が回る事で、なるべく天職持ちを漏らさないようにしていた。ちなみに正教の回る際に天職持ちを隠そうとすると、未登録者の
土曜日自体、教会では朝の天職適性の儀、昼の炊き出しとスケジュールが多く、人の数も平日とは段違いだった。それでも毎週の事で慣れている教会の人々は押し寄せてやってくる者達の順番を整理し、不平不満を聞きつつも落ち着いて儀式の進行をしていった。朝9時までにいた50人程の親子も自分達の番が近づくにつれて段々と静かになっていった。
ニコラス親子もマリアの時だけでなく、自分達の時も合わせて3回目の両親の方がナーバスになっており、ギルバートは出てくる親子の一喜一憂している表情をリラックスして眺めていた。王族や貴族になると誕生日に司祭を呼び、その場で儀式を行う為この場には基本的には庶民しかいない。そうは言ってもここに集まってくるメンバーも生活レベルはバラバラで、一発逆転を夢見て我が子に願いを託しているであろう親や子供に自分とは同じ苦労をして欲しくない冒険者の親など、皆違った表情を見せていた。
先に天職適性の儀を終えて、教会から出てきた子供達は15才という事もあり、自分の道に進めそうな子は安心した表情を浮かべ、天職持ちでも自分の資質に疑いを持ち冒険者にはならなそうな者であれば複雑な表情を浮かべてもいた。そんな中ギルバートの5人ほど前の子供が出てきた所で
彼らが出てくると小声が
「…あの子はまだ現実を知らないのね」
「そうだな、「竜騎士」だというのが本当なら、この国には残れまい」
「両親の身になって考えたらとてもじゃないけどA級天職だなんて喜べないわね」
ギルバートの方は両親の会話の意味が分からず、彼らが側を通り過ぎるのを確認してから声を
「「竜騎士」だとA級天職でも駄目なの?」
「ダメって訳じゃないさ。ただ「竜騎士」を育成する環境が王国には無いんだ。この国は基本的に近衛以外の戦力は冒険者ギルドに依存しているからな。まぁ、このやり方で建国以来長きに渡ってやってこれたからな」
「そうね、全ての天職持ちが一つの国にいるとは限らないわね」
「えっと、じゃあ彼はどうするの?」
「「竜騎士」なら恐らく帝国の寄宿学校行きね。そうだとすると、あの子は帝国の兵士として育成される事になるわ。だけど帝国にご両親がパイプが無いとすると扱いも少し悪いでしょうね」
「そんな…」
「高ランクの天職持ちになってもそこから先の人生が素晴らしいものになるとは限らないっていう分かりやすい例だな」
「それにしても二人とも詳しいね?」
「「……」」
そんなイベントもありつつ、
神像の前に立つ司祭の前にたどり着いたギルバートは、2・3段高い壇上から司祭の方から右手をギルバートの額へと右手を伸ばす。ギルバートはその動作に一瞬身をすくませるが、一つ深呼吸をすると身を委ねて、目を閉じて、神託が下るのを待つ。しばらくすると司祭より明らかに若い中性的な声が彼に呼びかけてくる。
「ギルバート・ニコラス、目を開けたまえ」
「はい…って、ここは?」
目を開けたギルバートの視界に広がるのは、辺り一面真っ白な空間だった。そして自分の前には先ほど見た神像とそっくりの人物が質感を持って実物として立っていた。ギルバートは何が起きたのか分からないまま、恐れも知らずについそのそっくりさんに尋ねる。
「貴方は神様ですか?」
「そうだ、そちらの世界で言う正教の神様って奴だな」
「平伏した方が良いですか?」
「そんな真似されても話しにくいだろ。ちょっと待て、話しやすい環境を準備するから」
「はぁ…」
現状を全く理解できないギルバートを置いて、軽く神を名乗る者は指を鳴らすと、二人の目の前にイスとテーブルとお茶が出される。神を名乗る者に促されて、ギルバートは恐る恐る席に座る。ニコニコとその様子を見ていた神を名乗る者は自分も席に着き、ひと口お茶を飲み、会話を始める。
「じゃあ、改めて自己紹介をしよう。僕はこの世界では神と呼ばれる存在。アルカイネだ。よろしく」
「僕はギルバート・ニコラスです。よろしくお願いします。アルカイネ様」
「気安くアル様って呼んでくれていいよ。僕も気軽にギルって呼ぶし」
「恐れ多いですよ」
「君の態度は僕を恐れているとはあまり思えないけどね」
目の前のやり取りの現実感の無さから、普通に対応してしまっているギルバートは苦笑しながら疑問を口にする。
「これって、儀式の中の一つですか?」
「ある事はあるけど、君で4人目だよ」
「4人目?」
「これから君に与える天職は過去3人しかいないとても希少なものなのさ。この天職を授ける時には天職適性の儀の時にこの場に呼ぶって決めているんだよ」
「って事はS級天職ですか?」
「ん、少し嫌そうだね。大丈夫、S級程度ならこの場には呼ばないよ。君らの世界ではF級天職って呼ばれるだろう」
「F級…って聞いた事が無いんですけど」
首をかしげながら、ギルバートは学校で習った事を思い出す。この世界には天職としてE級~S級まで存在しているとは授業で教わったが、F級天職なんて話にも出なかったからだ。
「おそらく、あまりの希少性に教育する以前に、秘匿しているのだろう。何せギル、君で史上4人目だからね。恐らく何処かには記録がある筈だから調べなさい」
「分かりました」
「うん、素直でよろしい」
「ところで、この場に呼んだ目的は何ですか?」
「察しが良いね、ギル。それを今から教えよう」
アルカイネはそう言うと一口お茶を飲む。ギルバートも落ち着いたままつられた様にお茶に口をつけ、目を見開く。
「これ、凄い美味しいですね!!」
「僕じゃなくて、先にこのお茶に驚くなんて君が初めてだよ。ところでギル、君を呼んだ目的はね…」
それからしばらくの間、アルカイネはギルバートに説明していく。ギルは美味しいお茶に
「それって、僕がやらないといけないんですか?」
「あぁ、君が選ばれたんだ。ギル、いやギルバート、これは宿命って奴さ。頑張ってくれ。僕の方は最大限のサポートをさせてもらうから」
「アルカイネ様がご自身で対応する訳にはいかないんですか?」
「そうするにはあの世界のリソースが足りないんだ。君に頑張ってもらうしかないんだよ」
「…難しい話は分かりませんが、やるしかないみたいですね」
「4人目で一番やる気が無さそうだね」
「まぁ、僕は平凡に生きていきたいだけですから」
「「暗殺者」と「精霊術士」の息子が平凡になんて生きられる訳ないだろう」
「えっ?」
「知らなかったのか?まぁ、そんな些細な事はどうでもいいけど」
「いや、些細って」
「ほら時間だ。戻り給え。またね、ギル。世界を救ってくれ」
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