第11話閑話 アメリア・ハート
冒険者ギルドのC級専用窓口、アメリア・ハートの朝はいつも7時頃に起きる所から始まる。朝は9時にしかやって来ないギルバートが来るまでに仕事の準備が出来ていれば良いと、直属の上司とギルドマスターから言われている為、ゆっくりと8時半頃に徒歩10分で着くギルドに向かうようにしていた。
家自体も王城のある北通りの真ん中あたりにあり、治安も非常にいい所であった為、通勤も不安なく、就職が決まった時も冒険者の粗暴さを両親は心配していたが、3年経った今ではその点も何も言わなくなった。
15才の教会での天職適性の儀の時に何も天職が無かったと分かった時に少しは残念な気持ちになったが、7割の人間には天職が無いと分かっていた為、そんなものかと割り切り、周りに合わせて王立の学校、大学と一般的にはエリートコースと呼ばれる道を進んでいった。
実際、今こうして冒険者ギルドの受付をしているのも、官庁に入り高級官僚になるか受付になるかという極端な選択肢の2択の中で、天職についての考えをしっかりと持ちたいという動機があった事は否めなかった。
またハート家の両親としてはアメリアが三人姉妹の三女という点でも、上の二人は結婚、婚約していて早々に家から居なくなった事があり、しばらくの間は実家に彼女を置いて自分達が寂しくならないように、という思惑もあった。そんな中でこうして朝食を両親と揃って食べられるこの時間はアメリア、両親にとってお互いに貴重なものと言えた。
「「おはよう、アメリア」」
「おはようございます、お父様、お母様」
朝はコーヒーだけと働き始めてから決めているアメリアにとって、毎度の事ではあるが両親が優雅に食事をしていながらも会話には影響がないという技術を自分も習得したくてたまらない気分にさせられていた。
「アメリア。どうだい、冒険者ギルドの方は?」
「毎日あまり変わり映えはしませんけど、ギルバート様の邪魔にならないようにするだけですから」
「毎回出てくるがそのギルバートっていう男はそんなに凄いのかい?」
「それは…どうでしょう?C級の冒険者だから、ランクから行けばちょうど真ん中より少し上位でしかありませんし、見た目も恐らく街であったら冒険者の方とは気づけないと思います」
「そんな一見普通の人間がC級冒険者なのも逆にすごいな」
「そうですね、この3年でE級からC級まで冒険者ランクを昇級されましたから、少し早めのスピードだとは思いますけど…。正直な所ギルバート様の担当しか冒険者ギルドでしていないので、比較も出来ませんわ」
「確かにな。お前は彼の担当しかしていないから、彼の事しか分からんものな」
アメリアが冒険者ギルドに就職する際、リュウを始め冒険者ギルドの面々は彼女の事を結婚までの腰掛けと見ていて、実際に窓口に置く決定をする際にも、窓口担当の取りまとめをしているA級の冒険者担当に「誰か低ランクの有望株の専属にしてしまえば」と言ってしまわれた為に、ちょうど目立ってきてはいたが、それほど力があるようには当時は見られていなかったギルバートの専属となるという経緯だった。
その為、アメリアは一般的なG級から始まる窓口担当の業務内容の流れなどは一切知らぬまま、あくまでもギルバートの専属窓口として特化した業務内容のみ仕込まれており、一般的な流れで入職した受付窓口の同僚たちからも少し浮いた存在だった。しかし持ち前のおっとりした性格とその
そんなアメリアを父親は少し不満そう話しかける。
「それにしてもギルバート、ギルバートと3年も冒険者ギルドに居て他にお前の周りには良い男性はいないのか?」
「あなた、何を言っているの?この子の他の周りってなったら、荒くれ者の冒険者の方々ばかりなんですよ」
「依頼者だっているだろう?そこで良さそうな人もいないのかい?」
「依頼者の方々ですか…。うーん、そうですね。色々な方がいますけど、あくまでも仕事だから、とてもそういう対象とは考えられませんわ」
普通の新入職の窓口の担当者ならば初級であるG級冒険者の担当からになる。冒険者ギルドのG級ダンジョンの依頼の掲示板への張り出しは朝6時からになっており、その時間には窓口も冒険者ギルドに居て対応してする。そこからF・E・D級と昇級するにつれて30分ずつ遅く張り出しをするため、本来であれば朝9時だとA級冒険者用の掲示板の張り出し時間となっており、この時間にはC級の冒険者は全くと言っていいほどギルドでは見なくなっていた。
その為、アメリアが朝の出勤してから見る事のある冒険者はB・A級冒険者が殆どと言ってよく、冒険者のトップエリートである彼らに関しても関わりがない為、有名人を見るような目でしか見ておらず、向こうもC級の担当であるアメリアと話す機会は無かった。
また、C級ダンジョンへの依頼者に関して言うと魔石はちょうど生活インフラを動かすエネルギーとして最適で、地球で言う所の電力、ガス会社が購入する為、ほとんど担当者同士で会う事は無く、一括でギルドと商会間でやり取りしていた。
ついでに言えばギルバートが依頼されている少し手間のかかるモンスターやダンジョン産の素材に関しても個人では無く、ギルドと商会間でやり取りする希少なものが殆どであるため、アメリアと担当が会うにしても非常に儀礼的に書面にサインをしてもらう程度の関わりだった。
それにアメリア自身もギルバートの専属窓口という立場である以上ギルバートが依頼を終える9時半からダンジョン実習の終わる夕方にかけても窓口にいる事は無く、中での事務作業に従事している為、彼女が冒険者の窓口をしていると知っている職員も実はそれほど多くなく、パートタイムの腰掛け事務員くらいに考えている者も実はいたりした。
勿論、彼女個人としては通常のC級冒険者と比較する事が無い為、冒険者ってとても稼ぎが良いのね位の感覚でギルバートと向き合っており、あの誰がどう見てもブラコンであるA級冒険者のマリアが姉である時点で、ビジネスライクの付き合い方が一番と考えていた。
これはマリアの方も世界で一番確実という女の勘で何となく察しており、他所で見せるような必要以上にアメリアを
「それじゃあ、私はそろそろ出る時間だから。今日はお仕事も夕方までだし」
「分かったわ。そうしたら夕食のお買い物を頼んでもいい?」
「うん、ちゃんと冒険者ギルドからもお金は沢山もらっているからね」
ギルバートの担当という事で、実際にはA級冒険者の担当と同じ位の歩合給が出ている形のアメリアだったがその認識も薄かった。それは
「そろそろ私も出るよ。アメリア、送っていこうか?」
「ううん、方向が逆じゃない、お父様」
「はは、どうせ多少遅れても誰も文句は言うまい」
「財務省のトップがそれじゃあ部下に示しがつかないんじゃないかしら」
「痛い所を突かれたな」
「それじゃあ私先に出るね。行ってきます」
「ああ、気をつけてな」
先に出るアメリアとハグした王国財務大臣ゴードン・ハートは三女が自立した生活を送り出している事を嬉しく思っていた。この後、自身の部下である次官からギルバート・ニコラスの名前を聞くまでは。
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