第18話 恐怖の大王

「このヒップアタックって攻撃、何故普通の攻撃よりもダメージが出るのかしら」


 十二月二十五日、日曜日。クリスマス。世間的にも私的にも休日の今日、フローレンスと共に積みゲーの消化をしていた。


「それは、大きなおしりだから大きなダメージが入るんですよ」

「説明になってないわ。槍で刺した方が痛いでしょうに」


 フローレンスのゲームプレイは拙い。それを横から指示するのはとても気持ちがいい。世の中の指示厨もこんな気持ちなんだろうか。だとしたらあまり責める気にはなれないな。

 ボスモンスター一体と向き合う四人のキャラ。そのうちの一人の剣による斬りつけ攻撃が繰り出される。すると、ボスモンスターが倒された。フローレンスはリザルトを殆ど確認することもなくテキストを送る。戦闘にはあまり興味がなさそうだ。

 街に戻ると町人に話しかける。ここはじっくりと読み込んでいた。一人一人、マップの隅から隅まで町人を探し、街を一周した後は宿屋で夜にしてからもう一度マップを巡る。モーションの長い動物にも毎回話しかけていた。

 実に楽しそうである。


「このゲームは良いわ。ちゃんと人間が生きているもの」

「にしてもくまなく回りますね。モンスターを倒すより楽しいですか?」

「ええ。逆にそっちは味気ないというか、向いてないわね」


 フローレンスはターン制の戦闘もそうだけど、アクション全般が苦手に見える。


「アドベンチャーゲームとか好きそうかもですね」

「それはどういったゲームなの?」

「簡単に言うとテキストを読み進めていくだけのゲームで、たまに選択肢が出てきてキャラクターの未来がそれで左右されるんです」

「戦ったりはしないのね?」

「そういうコマンドとかはないですね。それとマップを動き回ったりもないです」

「今やってるようなこともないの?」


 キャラクターを動かし回って見せるフローレンス。


「基本的には」

「じゃあ好きじゃなさそうね」

「そうなんですか?」

「これも好きなのよ」


 一見時間泥棒なだけの要素も、時間が膨大にある魔女にとってはお楽しみ要素か。

 いや、私も子供の頃はゲームをしてるってだけで楽しかった。理解できないゲームはあったけど、クソゲーなんて一つもなかったな。


「私もアドベンチャーゲームはあんまり好みじゃないんですよね。操作してる感が薄いから。でもカードゲームもできるギャルゲーとかは好きだから続編出て欲しいんですよねー」

「知らないわ」


 素っ気なく言ってゲームプレイに戻った。

 街でやることもなくなり、次なる街へと旅立つフローレンス一行。モンスターとエンカウントした。


「このぱふぱふって何の意味があるのかしら。モンスターには効き目はないと思うのだけど」

「私には効くからフローレンス、やってみませんか?」


 ぽん、と頭を叩かれた。


「いたた」

「悪い癖よ」


 麗しい流し目で見られた。

 気を取り直してプレイに戻るフローレンス。シンボルエネミーを避けるようにして洞窟を進んで行く。必然、レベルが徐々に足りなくなっていくけど、そこは装備で補っていた。

 薄暗い洞窟を進んでは戻る。それは迷っているわけじゃなく宝箱を探し回っているようだ。


「宝箱はちゃんと全部取っていくんですね」

「強い武器や防具が入っているから。私のプレイスタイルだとこういうのを拾っていかないとモンスターに負けてしまうわ」


 思ったよりもゲームに適応した考え方をしていた。


「これが楽しいというのもあるわね。外れの道にも意味があるのよ」


 全ての場所を見回って洞窟を抜けた。山と山の間に位置するそこには荒野が広がり、その奥に村がある。

 荒野を探索したのち村に入った。

 さっきと同じように人々に話しかける。村を回ると温泉が名物のようだった。


「温泉いいなあ」

「そうね」


 フローレンスも同意してくれた。


「二人で行きません?」

「温泉はいいけど、それを目的にしていく気にはなれないわ」

「それはどういう意味ですか?」

「温泉というのは何かのついでに、必然性なく入るものなのよ」

「ふうん? そういうものですか」


 よくわからない。私は入れたらそれでいいや。

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