風雲傾奇伝 双刀龍逃走記 †種付け王になりたい僕とヤンデレの姫君†
剣乃 和也
第一章 江戸の傾奇者
第1話 とある講釈師の講談
寄席『若竹亭』
寄席とはどういうものかと言えば、まあ一言で言えば『落語家が落語するところ』である。
昔はネットはおろか、もはや時代遅れとなったテレビや映画やビデオというものが無く、娯楽と言えば大衆演劇で様々な『魅せる芸』を行うのは、みんな『寄席』である。
細かい話をすると「講釈場」や「歌舞伎座」などの色んなものがあるのだが、ややこしいので、この『豊葦原』の世界では全部一括りに『寄席』と言う。
ちなみにこの世界の寄席は中央が椅子だけのいわゆる普通席で両サイドに桟敷席という畳張りの席があり、そこでは飲み食いも許されてるといった具合である。
多少は造りの違いはあるものの、ちょっとお高い寄席になると全部が桟敷席で二階席が大尽席といういわゆるVIPの席になる。
とは言え、寄席は大衆芸能を見せる場なので、大半がこの『若竹亭』のような寄席で演者の演じる高座があって、椅子があって、桟敷があってといった具合の寄席になる。
そんな高座にかかっていた緞帳が上がりつつあり、今まさに講談を話すところであった。
チャン♪ チャチャン♪ チャチャン♪ チャチャチャンチャン♪
パチパチパチパチ……………………
三味線と万雷の拍手に導かれるように、舞台袖から一人の講釈師が出てきた。
講釈師は愛想笑いを浮かべながらも客席の様子を確認する。
(満席だな……年寄が多いから、はっきりゆっくり言うか……)
彼は客席の様子に応じて話し方を少し変えたりもしてるので、客席の様子は注意している。
年寄りはどうしても早口が聞き取りにくいので、ゆっくりはっきり話さないとわかりにくい。
どんなにうまい落語や講談でも意味が分からなければ、ただの雑音でしかないので、この講釈師はその辺をよく理解していた。
彼は高座に置かれた釈台に座り……
パン!
扇子で小気味よく釈台を叩いてから軽くお辞儀する講釈師。
「みなさんご存じの通り、昔から妖怪というものがおりまして、この難儀な連中を倒してくれるのが『
講釈師がゆっくりと話し始める。
「最強の陰陽師と呼ばれていた天堂山木野子、「飛蝗面」を駆使した能楽士の瀬賀八郎、気功術の達人である武侠の賀茶王、三味線を駆使した楽師の寡独。皆さんもたびたびに耳にしているかとは思いますが……」
そう言って高名な傾奇者の名を挙げていく講釈師。
様々な傾奇者が起こした英雄譚の例を見せていくことで、客にどんな話をするかを期待を上げていく。
『傾奇者』とは世界を旅して様々な難事を解決してくれる人たちである。
と言っても基本的に無頼漢でならず者も多く、色々と厄介な連中でもある。
だが、武芸に優れた者の集まりでもあり、一攫千金を求めて傾奇者になろうとする若者も多い。
そんな憧れの職業でもあった。
「中には千英の父、万傑の祖父と言われた種付け王の助兵衛なんて者もおりまして、この男のせいで大半の有名人が血縁関係になって助兵衛問題ってのが起きたこともありました」
わはははは……
客席から軽い笑い声が上がる。
「何しろ二刀流の達人にして、史上最強の好色男なもんで、世界中に何千人という子供こさえてばらまいてますからねぇ。しかもその半分以上は政治、外交、法術、武道と様々なことに優れていて、すごい功績残してるんですから。最初は『うちの娘傷物にしやがって!』と怒られてたみたいですが、最後には『うちの娘に手を出してくれ』って言われる始末でして……」
わはははは……
更に大きな笑い声が上がる。
「そんなわけで色んな傾奇者たちが『助兵衛みたいになりたい!』って夢を見てるもんです。ええ……両方の意味でね」
わはははは……
客の笑いで掴みを取れたと踏んだ講釈師は、一旦、少しだけ間を置く。
このわずかな溜めがちょっとした緊迫感を産んでくれる。
そして静かに今日の本題へと向かう。
「さて、今宵お話いたしますのは最強の傾奇者と誉れ高い『双刀龍』こと
客席が少しだけ静かになる。
ここからが本題に当たるので固唾をのんで耳を傾ける。
「最近本屋でよく売れていると評判のあの『
はははは……
客席から軽い笑い声が上がる。
「中には別物にしちゃだめだろうがと怒る方もいらっしゃるかとは思いますが……脚色した奴が私の師匠なんですがね。本人曰く『双刀龍があまりに不憫で持ち上げてやった』と言いやがりました」
わはははは……
またも客席から笑い声が上がる。
「世間では最強と謳われていた双刀龍なんですがね。師匠がご本人に読んでもらったら、むしろお礼言われたぐらいでして……そんなに酷い目に遭ってたのかと私も原作の方を読んでみましたんですが……………………確かに良いところだけ盛られてましたね」
わはははは……
客席の笑いも大きくなっていく……
「さて本日お話いたしますのはこの『双刀龍逃走記』でございます。丁度良いところで区切られてしまいますが、次のお話は後日いたしますんでお願いします」
そう断りをいれてから講談師は英雄の足跡を語り始めた。
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