46.なんとなく後味が悪いわ
私の受けた被害については、クロエとセリアが証言に立った。他国から来たばかりで襲撃された私はまだ十二歳だ。話をさせるには幼いこと、まだショックから立ち直れていないことを理由に、自ら語る権利を行使しなかった。
別に怯えているわけじゃないけれど、この国がどう裁くのか興味もある。
「発言の許可を」
議長の許可を得て、エル様は立ち上がった。繋いだ手はどうしよう。そう思ったら、すっと引き寄せられる。腰に手を回して、私を隣に立たせた。
「マルノー侯爵令嬢は、以前から私の婚約者を自称して騒ぎを起こした。王宮の侍女が私と話したことで彼女に叱責され、実家に危害を加えられた事件もある。それらをすべて、父親であるマルノー侯爵が金と地位で黙らせてきた」
解決したわけじゃないのね。同じお金を払うなら、慰謝料の名目にして謝ればよかったのに。その後で娘を領地の屋敷に幽閉すればいい。私でも思いつく程度の策を、侯爵は実行しなかった。だからこれは、娘に巻き添えにされた冤罪ではない。
侯爵自身の罪も問われているのだ。
「私の婚約者候補に名の挙がった令嬢の顔に傷をつけた事件は、皆も知っているだろう。今回は隣国アルドワンの姫君が被害に遭った。国を揺るがす事態に発展した原因は、その女を自由にさせた侯爵にある」
断罪の言葉に、女性の甲高い悲鳴交じりの声が重なった。
「いやよ! 私は妃になるの!!」
妃は王族の妻だ。まだ王弟の地位にいるエル様は、結婚を機に臣籍降下する。つまり、妃になりたいなら陛下の妻になるしかないのだけれど。
驚いた私は、くいっとエル様の手を引いてしまった。ふっと表情を和らげたエル様の指先が、私の頬に掛かる髪に触れた。
「マルノー侯爵家は国家転覆を企んだ罪で断絶、それ以外認めない」
私に優しい顔を見せて、エル様は厳しい言葉を吐いた。その後に続けて「私の最愛を傷つけた罪は重い」と言ったのは、あれね。外交的に揺らいだアルドワン王国への配慮だと思う。本音なら嬉しかったのにな。これでも王女ですから、社交辞令はきちんと理解できます。
誇らしげに顎を逸らし、畳んだ扇を顔の近くに当てて微笑む。エル様の最愛に相応しい振る舞いに見えるよう、王女らしく振舞った。
「嘘よっ、嘘、うそ!!」
絶叫する彼女に辟易したのか、議長の指示で猿轡を噛まされた。侯爵は呆然とした顔で座り込んだまま、立ち上がることも出来ない。娘可愛さに家を傾けるなんて、ご先祖様が嘆くわ。
「アンジェル姫はそれでよろしいか?」
陛下の確認に、こくんと首を縦に振った。被害者に気を使ってくれた形を整え、議長が処断する。
マルノー侯爵家は断絶、当主である侯爵自身は投獄。奥方は実家に戻るが、嫡男である弟はまだ若いため母と同行する許可が出た。未来の侯爵だった弟君は、座っていた席から立ちあがって私に頭を下げる。隣の奥様も同様だった。
何となく後味が悪いわ。長女を除いたら、普通の貴族家だったのでしょうに。
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