第18話 一目置かれてんだな。

「なあーイリスぅー! オレもその晩餐会に呼んでくれようぅ。頼むからさぁー」

「いいよ、レオノくん。僕のお家に来ても、タイキを食べないって約束するならね」

「約束するよお。だから新しいソース、食わせてくれえぇ」

「他に遊びに来たい人は、お手紙送ってね。招待状送るから」


 にこにこと、イリスは愛想の良い笑顔を幻魔たちに振りまいた。


「……『慈愛公』! いい加減にせよ! 貴公の言動は『議会』を侮辱しているぞ!」


 どんっと円卓を叩いて、ラルカが叫ぶ。その様子を見ると、完全に頭にきているようで。青筋が顔に浮かんでいる。


「ごめんね、ラルカくん。僕はタイキがこの『議会』のためになるんだよって、証明したかっただけなんだ。そのためにも、タイキのこと、僕にあずけてくれないかな?」


 イリスは一応、すまなそうな表情を作って見せる。それにもイラだつのか、ラルカはぐっと拳を握った。


「『慈愛公』、貴公が言うようにその『ソトビト』が有用なら、『議会』預かりとするのが当然では無いか?」


 揚げ足取りのように笑うラルカに、イリスは困ったように眉を寄せて反論する。


「でも、『議会』に取り上げられたレーキはいなくなっちゃったよね? 僕の『ソトビト』だったのに……」


 前の『ソトビト』は、レーキと言うらしい。イリスのお気に入りで、大切な友達なのだと懐かしそうに彼は言った。




『レーキをこの『島』から逃がしたのは、僕。レーキは空を飛べる鳥人だったから、結界をちょっと壊してあげれば、空を飛んで逃げられたの。これは、内緒だよ?』


『議会』にレーキを取り上げられたイリスは、シーモスと共謀して『ソトビト』を『島』の外に逃がしたらしい。その犯人として『議会』から疑われた。だが、それをやった証拠はあがらなかった。疑わしきは罰せず。

 結局、イリスは『ソトビト』を独占した罪で、一時的に議席を剥奪されたくらいですんだらしい。




「……それは貴様が関与しているのだろう……? 『慈愛公』……!」


 憎々しげに、ラルカは吐き捨てる。イリスは困ったように眉を寄せた表情を崩さず、首を振った。


「ううん。僕じゃ無いよ。僕は後から聞かされたんだよ。レーキがいなくなったって。あの時はさびしかったなあ……」


 イリスは、なかなかの役者だ。流石に、陰謀だの裏切りだのが渦巻いている『議会』を見てきただけのことはある。子供っぽい所はあっても、そんなところはちゃんと幻魔なのだ。


「だから、悪いけどタイキは『議会』にあずけない。僕が保護して、僕のモノにする。でも、タイキが『外』から持ってきたことは、ちゃんとみんなに教えて上げるから。それでどうかな? みんな」


 一同の顔を見回してイリスが問うと、幻魔議員たちは議長に視線を移した。議長のラルカは咳払いして、「静粛に!」と偉そうに告げる。


「それでは『慈愛公』の提案に対して決を採る。今回の『ソトビト』を議会預かりとすることに賛成の者は挙手を!」


 賛成は10票。ラルカの側にいる者ばかりが手を上げているところを見ると、そいつらがアイツの派閥のヤツらなんだろう。


「賛成の者は腕を下ろしてくれ。続いて反対の者は挙手を!」


 今度上がった腕は15以上。今回の『議会』に参加した議員の数人が棄権した。


「反対の者は腕を下ろせ。それでは……反対を可決する」


 苦々しい表情で、ラルカは宣言する。彼自身はちゃんと賛成に票を入れていた。

 これで、泰樹たいきの身柄はイリスが預かることに正式に決定した。




「意外と民主的?なんだな、『議会』ってヤツは」


 帰りの魔獣車の中で、泰樹とイリスとシーモスは喜び合った。

 事は上手く運んだ。これで、泰樹は『ソトビト』として承認され、イリスの管理下にあることが周知された。


「民主的?……ってなあに? タイキ」

「あー『議会』何かの仕組みのことだよ。多数決で色々決めてたろ?」

『議会』では、泰樹の身柄をどうするのかと言う事以外に、土地の境がとか、果物の収穫量がとか……。そんな、退屈な議題がいくつか議論された。

「もっと直接戦ったりして、いろんな事を決めるのかと思ってたぜ」


 血湧ちわ肉躍にくおどるデスマッチ的な場外乱闘を、ちょっぴり期待していた泰樹は肩透かしだ。


「うーん。そうしても良いんだけどね。前の魔の王様は幻魔同士が戦い合うのはお嫌いだったんだ。本気で戦うと、どうしても、怪我したり死んじゃう子たちが出ちゃうからね」


 その頃からの慣習が現在の『議会』であり、議員制なのだそうな。


「……なあ、イリスってもしかして、強いのか?」

「うん。強いよ。でも、どうしてそう思ったの?」


 素直にうなずくイリスは、他の幻魔、レオノやラルカやナティエに比べればずっと人懐っこいし、優しい。それでも他の幻魔は、イリスを侮っている様子は無かった。むしろ、仲良くしておこうと言うような下心をのぞかせている者が多かった。

 肉体の力か、魔法の力なのか。はたまた、イリスがドラゴンだからなのか。ともかく、イリスが一目置かれているのは確かだ。

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