第16話 木彫りの指輪

ノビリタス学園。

そこはエリオット王国最大の超名門校であり優秀な生徒たちが集まる学び舎。

そして今日この日に選び抜かれた優秀な生徒たちが入学する。

王子、聖女、他にも国の重鎮たちの子息子女が揃う学園にとっても重要な世代だった。


そんな中、聖女と人知れず誕生した勇者が学園の門をくぐろうとしていた。


「相変わらずでかいなぁ……」


「流石国内最大の学校って感じですね……」


「失礼します。入学許可証をお見せいただけますか?」


僕たちが学園の大きさに改めて驚いているとスーツを着た女の人に話しかけられる。

僕たちは言われた通り入学許可証を渡し確認してもらう。

女の人は一つ頷いて僕たちに入学許可証を返した。


「シャーロット様とアランさんですね。寮の部屋まで案内します」


どうやらわざわざ案内をつけてくれるらしい。

それにしてもなぜ僕とシャーロットが同時に案内されるのだろうか?

ノビリタス学園は男子寮と女子寮に分かれているから同時に案内する意味があまり無い。


「お部屋楽しみですね」


「えっ?あ、うん。そうだね」


シャーロットは上機嫌で歩いている。

そんなにも寮が楽しみなんだろうか。

そんな疑問を抱いているうちに女の人はある建物に入っていく。

そこは男子寮とも女子寮とも違っていた。


「あ、あの……ここって入っていいんですか?男子寮でも女子寮でもない気がするんですけど……」


「……?はい、大丈夫ですよ。この先に部屋がありますから」


そう言われてしまうともう何も言うことはできない。

大人しくついていくとある部屋の前で止まった。


「ここがのお部屋になります」


え……二人……?

横にいるシャーロットを見ると笑顔で鍵を受け取っていた。

えっ?なんでこんなにも動じてないの?

僕がおかしいの?


「それでは私はこれで失礼します。午後の入学式には忘れず出席するようお願いします」


そう言って女の人は去っていった。

その場に僕とシャーロットだけが取り残される。


「ど、どういうこと?僕とシャーロットが同じ部屋って……」


「とりあえず中に入りませんか?」


「わかった……」


シャーロットは何か事情を知っているようだった。

僕たちは荷物を中に運び入れてダイニングにあった椅子に向かい合って腰を掛ける。


「それでどういうことなの?」


「どういうことというのは私達が相部屋の件について、ということですか?」


「うん」


「それなら簡単です。私が学園に私とアランくんを相部屋にするようにお願いしたからですよ」


………………お願い?

権力がほとんど通用しないこの学園ってお願いしてなんとかなるものだっけ?

確かにこの学園には婚約者同士で住む用の棟があると聞いた。

ただ聖女と貴族は別物な気がするんだが……


「そんなの国が許すと思えないんだけど……あとで僕が処刑されたりしない?」


「それなら安心してください」


シャーロットが一枚の紙を取り出した。

そこには大きな印鑑が押されている。

こ、これはまさか……!


「ぎ、玉印!?」


「はい。国王陛下をちょーっとおど……お願いしたらくれました」


脅しって言いかけた!?

国を敵に回すような真似はあまり、というか絶対しないほうがいいと思うんだが……

まぁ聖女の純潔を勝手に貰ってしまった僕も同罪か。


「一体なんて言ったわけ……?」


「認めてくれないならアランくんとこの国を出るって言っただけです」


えげつな!

聖女と勇者が同時にいなくなったら魔王に対する抑止力がなくなってしまう。

国王陛下に断わるすべは残っていなかったんだろう。


「事後報告になってしまってすみません。でも私達は婚約者ですし別にいいですよね?」


「え?婚約者?」


僕が思わず聞き返すとみるみるシャーロットの目から光が失われていった。


「結婚する気が無いのに私とシたんですか?あのとき好きだと言ってくれたのは嘘だったんですか?」


「う、嘘じゃないよ!本気で好きだし結婚もしたいって思ってる!でも……」


「でも、なんですか?」


シャーロットの目は依然として光を失ったまま。

本当は準備ができるまで隠しておきたかったんだけどな……

正直に言うしかないか……

僕は自分の荷物の中からあるものを取り出す。

そしてシャーロットの手を優しくとって持っているものを指につけた。


「こ、これは……?」


「僕が作った指輪だよ。シャーロット、これだけは僕から言わせてくれ」


僕がシャーロットの指にはめたのは木を彫って作った手作りの指輪。

そして僕が伝えたかった言葉は──


「シャーロット。僕と結婚してください」


「……っ!」


「本当はもっと準備してからロマンチックに言うつもりだったんだけどね」


シャーロットが抱きついてキスをしてくる。

僕はそれを受け止めて抱きしめ返した。


「はい……!こちらこそよろしくお願いします……!本当に嬉しくて幸せです……!」


「僕の拙い手作りでごめんね。ちゃんとした指輪を作ってもらえるように職人さんを探してるところだったんだ」


指輪はなんとなく気分が盛り上がって作ってしまった。

作ったあと自分のやってることがめちゃくちゃ重いことに気づいて急いで職人を探し始めたんだよね……


「そんなの必要ありません」


「え?」


「私にとってはこの指輪が一番です。アランくんが手作りしてくれた大切な指輪。他のどんな指輪よりも価値があります」


「そ、そうかな……」


シャーロットは愛おしそうに木の指輪を撫でた。

まるで誰にも絶対に渡さないと言わんばかりに。


「私の一番の宝物です……!」


「あはは。そう言ってくれるのは嬉しいよ」


シャーロットは改めて指輪を見つめる。


「これどんな素材で出来てるんですか?」


「ヴァイオレットの木だよ」


「どうしてこの木を?」


「すごく硬いから加工は難しいけど耐久力が高いからさ」


「なるほど……考えられてるんですね」


ヴァイオレットの木を選んだ理由は硬いからだけではなかった。

ヴァイオレットの花言葉は──


『永遠に変わらぬ愛』


──────────────────────────

※今更思いついたので先行公開から少しだけ加筆しました。


本当はアランの言ってた通りプロポーズはもっと先にするつもりでした。

でも書いてたらいつの間にかシャーロットが病みモードになってアランがプロポーズしてました。


ていうかまさかの相部屋ww

シャーロットの行動力恐るべし……

それにアランもちょっと重くなってきた……?

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