第6話 指切り
シャーロットがさらわれる事件が起きてから3年後。
僕たちは10歳になっていた。
お別れの年である。
あの事件の後、王子が来てシャーロットに貴族の養子になるよう命令を出した。
ちなみに僕もヘイマンと名乗る近衛隊隊長の人にスカウトされた。
まあその誘いはお断りさせてもらったんだけど。
僕の話はとりあえずおいといてシャーロットは王子の命令を断固拒否。
しかし聖女はノビリタス学園で教育を受けることが義務付けられていた。
お互いが妥協した結果、入学までに最低限の教養を身につけるために5年間、つまり10歳から貴族の養子入りすることが決定した。
だったのだが……
「グスッ……アランくんとお別れなんて嫌だよ……」
いざ、別れの瞬間になるとシャーロットは大泣きした。
出発の一週間くらい前からは訓練も最小限にシャーロットとずっと一緒にいたけど寂しいものは寂しい。
僕だって同じ気持ちだった。
「約束しよう。シャーロット」
「約束……?」
僕は大きく頷いた。
そして優しくシャーロットの手を包み込むように握る。
「5年後、僕もノビリタス学園に入学する。シャーロットを守るために」
その言葉はラノベの中の僕と同じセリフだった。
それでも僕の本心からの言葉。
今一番シャーロットに伝えたい言葉だった。
「でも平民だと入学は難しいって言ってた……」
「頑張って合格してみせるよ。約束だ」
「アランくんがそう言うなら信じる。アランくんが言うことは絶対だもん」
………なんかラノベとだいぶセリフ違うよ?
本ではもっと不安そうに書かれていたけど今のシャーロットは疑うことなく言い切った……
まぁ僕がシャーロットを助けちゃったわけだしちょっとくらい変わっていてもおかしくないか。
「それじゃあ指切りしようか」
「……うん!」
シャーロットの顔が明るくなった。
僕たちは小指を絡ませて指切りをした。
本当に大切な約束をするときしか使わない僕たちのとっておき。
「はい、約束」
「うん。アランくん……私頑張る!だから、絶対に5年後に会おうね!」
「もちろん!応援してるよ」
「私も応援してるね」
そう言って僕たちはハグをした。
数十秒抱き合って離れたときにはもう、シャーロットは泣き顔ではなく笑顔だった。
「元気でね〜〜!」
最後は笑顔で手を振る。
僕は馬車の姿が見えなくなるまでシャーロットを見送った。
馬車が見えなくなったとき、手を下ろして気を引き締める。
「さて、ここからが訓練の本番だ。敵の正確な強さが分からないんだからこの5年で鍛え抜かなきゃ」
僕は頬を軽く叩き最近手に入れた真剣を持って走り出した。
シャーロットを守れるように、もっと強くなるんだ。
◇◆◇
〜5年後〜
「大変だ!街の門が数匹のリザードマンに攻撃されてる!」
「なんだって!?リザードマンに!?」
「ああ……憲兵団は今、出動準備をしているらしい」
街の誰かがリザードマンの襲撃を知らせ街の人たちに動揺が走る。
リザードマンは強力な部類の魔物で固い鱗による高い防御力と攻撃的な性格が脅威とされている。
それが数匹いるとなれば一般人に動揺が走るのも無理はない。
「ど、どうすれば……逃げる準備をするか?」
「どこに逃げるんだよ!憲兵団がなんとかしてくれるのを祈るしかない!」
街は壁に囲まれているから安全だが外に出れば安全の保証はなかった。
更にこの街はとある事情で街付近での魔物の遭遇率が高い。
護衛もなしに外に出るなどそれこそ死ににいくようなものだった。
「皆!もう大丈夫だ!」
不安に染まる街の人たちの間に新たな声が響く。
もう憲兵団が動いたのだろうか。
だがそれにしては動きが早かった。
「どうしたんだよ……もう憲兵団が対処してくれたのか?」
「違う!アランが来てくれたんだ!」
「アランが!?」
その名前を聞いた瞬間、場は静まりかえった。
さっきまで不安に包まれた雰囲気が変わっていく。
そこで出た名前は街の人達にとって特別なものだった。
◇◆◇
「この街は僕の家族もいるしシャーロットの家族もいるんだ。この門を突破させるわけにはいかない」
僕は今、数匹のリザードマンたちと対峙していた。
修行を終えてようやく街に帰ってこれたと思えば街がこんなトラブルに巻き込まれているとは。
まさかこの街までリザードマンが来るとは想定外だった。
街の安全のために早めに駆除するとしよう。
「ほら、行くぞ!」
僕が地面を蹴った瞬間、リザードマンたちも動き出す。
まずは二匹か……右と左に回り込んでくるとは意外と頭が良いじゃないか。
右側と左側から同時に爪の攻撃が迫る。
僕はもう一段階加速し攻撃を避けつつ2体同時に真っ二つにした。
「やっぱリザードマンは弱っちいな……柔らかすぎて修行にならない」
そのあとも残ったリザードマンたちと戦った。
結果を見ればもはや蹂躙と言ったほうが正しく到着してから3分で傷一つ負わず全滅させてしまった。
修行で戦ってきた魔物たちと比べればお遊びみたいなものである。
「あ、憲兵団の皆さん。お疲れ様です」
「あ、アランさん!?どうしてここに!?」
「修行を終えてついさっき帰ってきたんですよ」
「そ、そうでしたか……」
憲兵団の人たちに後始末を任せる。
5年ぶりの街はとても懐かしいものだった。
昔はよく走り回った道を通り家に戻る。
「母さん。ただいま」
「まあアラン!本当に大きくなったわね……」
僕の身長はこの5年で大きく伸びた。
それゆえに筋肉量も格段に増え、魔物たちとも前より楽に戦えるようになった。
「まあね」
「まったく魔の山に修行のために山籠りするなんて……聞いたときは正気を疑ったけどこんなに
そう、僕はシャーロットとお別れしてからずっとこの街から10キロほど離れた場所にある魔の山に山籠りをしてサバイバルと修行をしていた。
最初は毒キノコとか食べちゃって何回も死にかけた。
でもいつの間にか抗体が出来てて食べても大丈夫になったんだよね。
「今ではアランは街の英雄のようになっているの」
「え?そうなの?」
「うん。アランが山籠りを始めてから魔物の出現数が半減したんだよ。それでアランの影響なんじゃないかってね」
「ああ、そういうこと」
僕たちの街の周りの魔物の出現率が高いのは近くに魔の山があるからだった。
それで僕が魔の山の魔物を片っ端から倒しまくっていたから街に流れる魔物が減ったんだろう。
まさかそんな副産物があったとは……
「それはよかったけど僕はノビリタス学園に入学試験を受けるために戻ってきたんだ」
「分かってる。ちゃんと願書は出しておいたよ」
平民の場合は偉い人の推薦状がいるんだけど僕の場合はヘイマンさんが書いてくれた。
ラノベではシャーロットが養子になったところの貴族が書いてくれるんだけど今回はそうはならなかった。
学校に通ってる平民の優秀者たちはその学校の校長が書くみたい。
「ありがとう。それじゃあ明日の朝には出発することにするよ」
「はいはい。今日くらいはゆっくりしてくんだよ」
「うん」
僕はその日は久しぶりの我が家で夜を過ごした。
いよいよシャーロットとの再会のときがやってくる。
シャーロット、元気にしてるかなぁ……
その日は美しい銀髪と可愛らしい笑顔の少女に思いを馳せ眠りについた。
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3日連続日間3位ありがとうございます!
毎回2位の作品が変わってるのはなぜだろう……
アランがおかしいだけなので毒キノコは絶対に食べないでください。
そしてようやくアランたちが15歳に!
幼少期編はこれにて終了です!
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