第19挑☆洋館の地下には回復の泉 藤花の告白 後
藤花は肩を震わせて、大粒の涙をこぼした。嗚咽をこらえきれないらしい。なんとか呼吸を整えながら、話を続ける。
「そんなとき、私はモデル仲間から、赤鬼さんと関根さんの噂を聞きました。権力者を狙ってバタフライの情報を得ているプレイヤーがいると。権力者が国民にひどい政治をおこなっている場合は、権力者を倒していると。
……もしかしたら、この人たちにお願いしたら、ヘーアンの国が変わるかもしれない。そう考えて、コンタクトをとったんです」
「どうやって?」
チョーが訊ねてきたので、それについては私が答えた。
「そのとき、私と関根はカンダの国に入っていた。芸能界は国の権力者ともつながっているからな。芸能界の人間から情報を集めている最中に、藤花がコンタクトをとりたがっていることを聞いた。
藤花がヘーアンの国の大統領の娘だと知っていたから、私たちも興味を持った」
「……そうはいっても、私は、父を殺してと依頼することはできませんでした。あんな父でも、父であることに変わりありませんから。
赤鬼さんと関根さんが父に出した要求は、私が考えたものです。
国政が変われば、国民の暮らしは変わる。そうすれば、蕾ちゃんの生活が変わる。夢をあきらめなくてよくなる。そう、考えました」
「それで、ヘーアンフェスティバルで誘拐事件を起こしたってのか」
チョーに訊ねられ、藤花はうなずいた。
「藤花ちゃんが依頼したようには見えなかったな……」
カイソンが呟いたので、私が反応した。
「そういう依頼だ。この計画は、藤花が立てたと悟られてはならない。私たちに藤花を傷つける意思がないことがわかってしまったら、大統領が要求を聞くことはないだろう」
「……いいえ。私が死んで父が変わるなら、それでもいいと思ってます」
「なっ!?」
驚くチョーとカイソンに、藤花は強いまなざしを向けた。
「ヘーアンの国を変えないと。蕾ちゃんや、蕾ちゃんみたいに悲しむ人たちを生み出しちゃいけない」
……そう。私は、若干14歳のこの少女に、真の為政者の姿を見た気がした。だからこそ、力になりたいと思ったのだ。
「藤花の決意は固い。だが、私たちも藤花を殺すつもりはない。大統領が要求を飲むまで、戦うつもりだ」
「って言っても、どうすんだ。あのクソ大統領……いや、あのクソじじい……あれ、あのクソデブ……」
「チョーさん、藤花ちゃんに気を遣うなら、まずクソって言ったらダメっすよ」
「あ、そうか。あの親父、このままじゃ要求聞くつもりなさそうだぞ?」
「話し合いは無理っすかね……」
「うーん」
チョーが腕を組んで悩んでいる。この男に現状を打破するアイディアを出せるような知能は感じないが。
「よし、わかった」
チョーが何かひらめいたようだ。なんだ?
「大統領と戦おうぜ」
「はあ?」
カイソンらチョーの仲間たちだけでなく、関根と私も口をぽかんと開けてしまった。何を言っているんだ、この男は?
「今から、俺たちは赤鬼たちに協力する。で、藤花を連れて、大統領の屋敷に乗り込もうぜ」
「待ってください、チョーさん。意味不明なんすけど」
「藤花を返してほしけりゃ言うこと聞け! っていうだけじゃあダメなら、大統領をとっ捕まえて要求を飲めって脅すしかねえだろ」
「考え方が凶悪犯のそれー!」
「話し合いがダメなら力ずくだ。まあでも、それは本当に最終手段だ。なあ藤花、もう一回、親父に直接言ってみねえか?」
「え……?」
「何回言っても無駄なこともあるかもしれねえけどよ、大事なことは何回言ってでも聞かせなくちゃよ。
藤花は、自分で言っても無駄だから、赤鬼たちに代わりに言ってもらったんだろ? そうしたくなる気持ちもわかる。
でもな、本当にわかってほしい相手なら、やっぱり自分の声で伝えるもんだと思うぜ」
……そうか。チョーという男は、こういう男か。
ムラサキ陣営の人間と組むというのは、どうかと思ったが。藤花のために、少しばかり、手を組むか。
藤花はふと、チョーとカイソンの後ろにいるバタフライの幼虫に目を向けた。幼虫の頭に乗っている花輪を見て、
「これ……もしかして、蕾ちゃんが作ったの?」
と、言った。
「そうだ。よくわかったな」
「わかるよ。だって、私もよく作ってもらったから」
藤花は、チョーに向かって言った。
「私、蕾ちゃんともまた話せるかな?」
チョーは、迷わずうなずいた。
「ああ。もちろんだ」
藤花が笑った。出会ったときからずっと憂鬱な表情を浮かべていたが、こうして笑うと、まだあどけなさの残る一人の少女だな。
「じゃあ、今から作戦会議といこうぜ。大統領の屋敷に乗り込むぞ」
この男、簡単に言うんだな。初心者とはいえ、強さは先程の戦いでわかっている。
……このような男こそ、アゲハ様に必要なのかもしれないが。
私たちは地下から出て、応接間で話し合うことにした。
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