チョウチョ革命☆大一文字挑!!

eden

第1挑☆バズキングに俺はなる!?前

 俺の名前は大一文字挑おおいちもんじ ちょう。港に面した物流倉庫の中で、キャベツ入りの段ボール箱を運んでいる夢追い人だ。今日はアルバイトとして働きに来ているが、決してただのフリーターじゃねえ。

 隣でブロッコリーの段ボール箱を仕分けているのは、舎弟の石川開尊いしかわ かいそん。俺は、カイソンって呼んでる。


 カイソンは、大量のブロッコリーが入った段ボール箱を一度に2ケース抱えて、三洋店のカゴ車に乗せ、そのまま自分も段ボール箱に両腕を置いた。


「っはぁ~、いったい何箱あるんだよ、このブロッコリー! 誰がこんなに食べるっつーんだよ」


「まあまあカイソン、お前のはたかだか6パレットだろ? 俺のキャベツなんか、見ろよ、えぐいぜ」


 俺が親指で差した方向には、自分の身長より1メートルは高く積まれている、キャベツ入りの段ボール箱。それが10パレットあるから、ざっと300ケースはあるか。カイソンはちらっと俺を見て、


「チョーさんなら一度に5箱くらい持てるでしょ」


と、言った。その通りだ。


「まあな。おかげで各レーンの重量級商品は全部俺とお前で担当だ。ほかのレーンでも牛乳ケースとかの飲料系、こんにゃく、出汁、ぶっとい海苔巻きの山……サラダなんか触ったこともねえわ」


「チョーさんはバカ力だからいいですよ。俺はそこまで力あるわけじゃないし」


「何を言う、俺の次にケンカ強いくせに」


「だいたい、俺たちはなんでこんなところにいるんすかね」


「そりゃあ、金がないからだろ」


「そーっすけど」


 カイソンは段ボール箱をバンッと叩いた。


「チョーさん、今からでも遅くないっす。やっぱ、どっかの組かマフィアの誘いに乗りません? 絶対そっちのほうが儲かりますって!」


「馬鹿ヤロー、俺はそういう系は嫌だっつってんだろ」


「だったら、いつになったら金ができるんすか」


「そりゃ、バズったらだろ」


 カイソンは頭を抱えている。なんかため息もついている。

 なんでだ。こいつは、俺の夢を知っているはずだ。

 俺の夢は、幸せな動画を作って、世界中を幸せにすること。怪しい宗教じゃないぜ。見ている人がほっこりするような、すがすがしい動画を作って配信するんだ。


 今の時代、日本だけを見ていちゃダメだ。少子化は進んでるし、そのうちいろんな仕事がAIに取って代わられるっていうじゃねえか。じゃあ、ふつうに就職したってつまんねえ。

 そこでだ、動画配信だ。動画だったら、市場は日本だけじゃねえ、世界に広がっている。日本人だけでなく海外の人たちにもウケる動画を作って配信すりゃあ、いっそ日本が沈没したって生きていけるってもんだ。


「チョーさん」


「ん?」


「1か月前に投稿した動画の再生回数知ってます?」


「え、見てねえ」


 カイソンはスマホの画面を見せてきた。


門城町もんしろちょうの門城公園を掃除してみた』


 年末、寒風吹き荒れる中、凍えながら落ち葉拾いをした動画だ。元不良が地域の公園を必死に掃除するという、ほっこり動画だ。

 再生回数は、11回。


「うおおおおおおお!? なんじゃこりゃあ!?」


「ほらっ、あまりの再生回数の少なさにビビるでしょっ……」


「再生回数、二桁超えてる!!」


 心の美しい視聴者が10人以上いた……!

 俺が猛烈に感動しているというのに、カイソンはどうしてそんな冷めた目で俺を見るのだろう。

 カイソンはスマホをズボンのポケットにしまって、身体を起こした。


「あーもう、とっととブロッコリー終わらせてやるよっ」


「はっはっは、そのいきだぁ!」


 俺は自分より少しだけ背の低いカイソンの肩を軽く叩いた。


「まあ、いいじゃねえか。とりあえずここで、俺たちが重てぇもん運んでやったらよ、姉さんたちが喜ぶじゃねえか」


「姉さんって言っても40オーバーのおばちゃんか、アラカンのもはやおばあちゃんしかいませんけどね」


「馬鹿ヤロー、女性はな、いくつになっても姉さんなんだよ」


「おーい、チョーちゃん」


 後ろから名前を呼ばれて振り向くと、にこにこ顔のキヨさんがいた。小柄でかわいらしい、推定年齢65歳の姉さんだ。


「キヨさん、どしたい」


「今、一人で牛乳配ることになってなあ。いっしょに入ってる阿久津さんが、まーたサボってタバコに行ってしもうたんよ」


「へえ。阿久津のバカですね。ボコりましょうか」


「チョーさん、それは死にます」


 カイソンのつっこみは無視だ。


「キヨさん、キャベツ終わったらそっち手伝いに行きますよ。カイソンと二人でやれば、30分あれば充分っす」


「いや無理―。ふつう2時間はかかるやつー。ってか、俺も行くこと決まってるー」


「ごちゃごちゃうっせえぞ。カイソン、お前はとっととブロッコリーを始末しろ」


「はいはい、わかりましたよ」


「チョーちゃん、ありがとね~」


 キヨさんはトコトコと元の作業場に戻っていった。

 あの笑顔だ。

 あのほんわかした笑顔が見たくて、俺は働くんだ。


 だがな、わかってる。本当は、こんなところにいる場合じゃねえってこと。俺は、動画配信を通して、たくさんの人をあんな笑顔にしたいんだ。



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