第19話
「…はぁっ、はぁ…っは」
「フラウタ様!しっかり!」
食堂から少し離れた控室まで動揺を隠してしずしずと歩いてきたが、扉を閉めるなりフラウタは息を荒くして椅子の座面に突っ伏した
「大丈夫…はぁ、はぁ…大丈夫よ…」
ヴェーダはここまで取り乱したフラウタを見たことがなかった
いや、取り乱してはいない
まだ十分に理性を保っている
だが体がそれを受け入れていないのだ
フラウタの動揺は間違いなく新しいアネモイ、つむじのせいだ
「
「…誰です?」
上気したフラウタの顔は、それでも幸せそうに微笑んでいた
「ああ…どうしよう…わたし戻れないわ」
「少しお休みになって…」
「いいえ、このまま帰るわ。ヴェーダは戻って適当にやっていて」
「彼女らと世間話をしろと?ごめんです」
「フフ…そうね。じゃあここで解散てことで」
ようやく立ち上がったフラウタを支えようと腰を抱きかかえるが、すぐ振りほどかれた
「大丈夫…みんなに心配されちゃう」
フラウタは二度三度深呼吸をすると、いつもの穏やかだが毅然とした顔に戻った
「お汗が」
ヴェーダは白いハンカチでフラウタの額を拭う
「いつもありがとう、上田さん」
「最近のそのあだ名、何なんです」
ヴェーダは眉根をねじらせてフラウタを見た
「最大限の感謝のつもり」
「気味が悪いですよ」
フラウタはヴェーダの怪訝な顔を見て笑った
「そういう顔もするのね。笑った方が絶対素敵なのに」
「…やめてください」
「わたしが踏みつけて笑ってって言ったら、笑ってくれる?」
「難しい注文ですけど」
フラウタはヴェーダのお尻をパンツの上からつねった
「笑ってよ」
ヴェーダは複雑な感情を繊細にコントロールし、笑ってみせた
「ダメよ、何?その顔」
なじられたヴェーダは顔をはにかませて喜んだ
「それも違う」
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