ただの鍛冶屋の俺が最強勇者と出会った話

そばかす

クラドの旅立ち編

第一章 最強勇者との出逢い

1 . エリファス・ルヴィ

石畳の敷かれた、木組みの家が建ち並ぶこの街・ラスゴー。

此処は、フリッケン山を中心に深い森に囲まれ、大昔から"魔法使いの住まう街"として名が知られていた。

魔法…それは、元々人間の中に眠っている「魔力」を強制的に引き出し放出させる事を呼ぶ、魔力というのは、魔法を使う為に必須であり、魔力量が多い人間程強力な魔法が使えるのである

普通の農民の魔力量はコップ一杯分程度だが、王族や貴族など位の高い人間や、才能のある人間は、その量を遥かに上回る魔力量を持っている。

だが、それは潜在的に人間の中に眠っているだけであり、その魔力を引き出さなければ魔法は使えない。その為、魔法が使える人間は神として、街の人々から崇められていた。




「― " 勇者・エリファスが、あの邪智暴虐と言われた魔王を倒した " ………ねぇ、」


そんなラスゴーの街の一角に、とある一軒の鍛冶屋があった。店内には額にバンダナを巻いた赤髪の青年が一人、訝しげに新聞の、ある記事を読んでいる

それは最近世間を騒がせた魔王討伐の記事だった。というのも、このラスゴーでは数年前から魔王・ルシフによって支配されていたのだ。だがある時、突然現れたエリファス・ルヴィという少年が一人で魔王城へ向かいルシフを倒し、この街を支配から解放したという……

エリファスは、街を救った英雄として、「勇者」という最高ランクの称号が与えられ、最近こうして新聞などでその活躍が報道されているのだった。



「はぁ…コイツ、俺より年下だよな?……あーあ……嘸かしモテるんだろーなああ」



青年の名前はクラド。魔法は使えず、若くしてこの鍛冶屋を一人で営んでいる。クラドは根性も優しさもあるが兎に角女性からモテなかった。

そう嘆くと新聞紙に写っているエリファスの整った顔を睨みながら、ぺらりと次の頁を捲る。

…すると、それとほぼ同時にカランカラン、と客が入店した事を知らせるベルが鳴り、クラドは新聞から扉に目線を移した

入って来たのは十代後半あたりの少年で、フードで顔はよく見えないが、耳には金色に輝く長方形のイヤリングが揺れていた


「この剣を修理して欲しい」


その声と共に、木製の台の上に剣が置かれる。クラドはそれを見て思わずぎょっとした。少年が持ってきた剣は、数ある剣の中でも「伝説級」と言われている中の一つであるジナユーズだったのだ。

ここで、伝説級がどれほど凄いのかを教えよう。この世界には数え切れない程の剣が存在している、中にはランクの付けようの無い弱い剣や、逆に世界に数個しか存在しない最強の剣など色々あり、伝説級は後者に当たる。だが、更に上のランクがあり、それは「幻級」と呼ばれているのだ。

…さて、「伝説級」の凄さが大体分かった所で、そんな中のジナユーズと言う剣を所持しているこの少年は一体何者なのだろうかとクラドは緊張で息を呑む。

今まで数々の剣を修理し、見て来たクラドだがこんな凄い剣は見たことすら無かった。片手で剣を持ち、ずっしりとした重みを肌で感じる。


「あー…お客さん、これどうやって手に入れたんスカ?」


剣を一旦置き、目の前に居る少年に目をやった。背丈はそんなに高くなく小柄で、変わった服装をしている。

そしてフードから時折見える少年の口元は無表情を連想させた。


「そんな事を聞いて何になるんだ?…明日取りに来る、修理代は此処に置いておくぞ」


少年は少し苛立ちを含んだ声色でそう言えば、金貨が入った袋を台に置き、店から出ていこうとした。

その時、フードからちらりと見えた横顔にまたもぎょっとし、手に持っていた新聞をパサりと落としてしまう

新聞に載っていたエリファス・ルヴィの写真。耳には金色に輝くイヤリングが揺れていて、鋭く光の無い紫の瞳に、一風変わった聖職者のような服装。


「エ、エリファス………??」


無意識に出た声にクラドははっとする。少年は一瞬此方を振り返ったが、そのまま店を出て人混みの中に消えていった。

クラドはその光景をぼーっと眺める。あれが見間違いには到底思えなかった。だが、だとしたら今自分はとんでもない経験をしているのではないか?と頭の中で考える。

不意に目の前にあるジナユーズに目を向けた、一見何処も悪いようには見えないが、よく見ると色んな所に傷が付いていて、使い古された物だということが窺える。もしかして、魔王を退治した時に使用した剣なのでは……と思うと、色々な所が調べたくなりうずうずしてしまう、これが職業病というヤツなのだろうか。

兎に角、仕事なので落とした新聞を拾い上げ机に置くと、もう一度剣を持ち作業部屋へ向かった。


扉を開けると、少し埃っぽく部屋の中はごちゃ、としていた。適当に物を片手で退け、木製の椅子に座る

そして専用の機械を使い、剣の修理が始まった。






────────────────

───────────






鍛冶屋から少し離れた、ラスゴーのとある路地裏に先程の少年が歩いている。建物に挟まれた薄暗い道には、柄の悪い男達がにやにやと少年を見ていた


「(何時来ても不快な場所だ……)」


その様子に心の中で悪態をつきながら出口まで早足になりつつも歩く、するとあと少しで出られるという所で男の一人が立ち上がりドスの効いた声で"オイ"と少年に向かって言った。

だが、少年はその声を聞く前に立ち止まる

いつの間にか周りには、男達が少年を囲うように立って居た。その手には各々武器を持っている


「なんだ」


「お前……エリファス・ルヴィだろ?俺らは殺し屋なんだが、ある人にお前を殺してくれと頼まれてな……」


少年を呼び止めた男がそう言うと

くくく、、と周りの男達が不気味な笑みを浮かべ、ジリジリと近寄ってきた。


「ほう……それで?」


だが少年は先程と変わらず無表情のまま問う。その様子に苛立ちを見せた男だが、また笑みを浮かべながら口を開いた


「ああ?……そのままの意味さ、お前を今から殺すんだよ……っ!!!!」



その言葉を合図に剣を振りかざし少年の方に突進してくる男達、それをさっと躱す。だが複数対少年一人じゃ結果は見えているが、それを覆すように華麗に男達の攻撃を避けていく

だが流石にキリがないと感じたのか、少年は懐から木の杖を取り出して「浮遊魔法」とだけ呟き、杖を持った手を上に上げた。すると、男達の身体が宙に浮き、少年が左右に杖を振るのと同時に男達も左右に揺れる。



「なッ……!!!てめぇ魔法が使えたのか……!!!!??


「嘘だろ……!!」


「こんな奴に適うわけない………」



男達は口々にそう言うが、少年は手を止めない。そのまま壁の方へ勢いよく杖を振り、男達を壁に激突させた。ドカッッと鈍い音がした後、魔法が解かれたのか男達がバタバタと地面に落ちてゆく。

その光景をじっと静かに見つめた後、何事も無かったかのように懐に杖を仕舞い、少年は路地裏を後にしたのだった



「(剣が無いと矢張り、少し不便だな ……)」


そんな事を呑気に考えながら___









……To be continued

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