第2話 魂の出会い

 魂は暗い森の中を揺蕩う。自身が何者なのか、何を為したのかも知らずにただ揺蕩う。

 暗い森の底には光は差さず、地面には苔のような植物が根を張っている。そんな空間が魂には心地よく感じられた。光を覆い隠すほどに植物が生い茂っていて、小さな虫たちが草木に張り付いている。しかし餌となる小動物がいるというのに大型動物の数が少ない。


 森林浴をしている魂は黒い鴉を見つけた。元々黒いはずの鴉だが、それはただひたすらに黒いという印象を与えた。少ししてから魂はその鴉が自身と近しい存在のように思えてきた。存在が曖昧でそこにいることが不思議なことのように思える。それに何か懐かしさのようなものも感じる。

 黒い鴉は魂に呼びかけるように翼を大きく広げ、地面に翼を擦りそうな高さでゆっくりと飛び始めた。魂は鴉について行かないといけない気がして数瞬遅れながらも動き始める。

 鴉に比べて魂の動きはフラフラしていて落ち着かない。黒い鴉は魂が付いてきているか確認するように何度か後ろを見ながらゆっくりと魂の前を飛んでいた。


 魂は前を行く鴉に付いていきながら、森の様子を観察する。やはり植物が生い茂っていることは変わらない。しかし一つ気づいたことは強い力を持った個体がいることだ。きっとこの生物から逃げるために他の動物達は逃げたのだろう。力を感じ始める少し前から小動物の姿が見えなくなっていた。

 さらに奥へ進んでいくと力の主から、魂は自分と同じ気配を感じ取った。なぜだか分からないがそこに行かなければならないと感じた。しかし自分は鴉に導かれている途中であることを思い出した。

 そこで魂には一つ疑問が生じる。なぜこの鴉は自分の前にいるのだろうかと。しかしその疑問を鴉に投げかけることはできない。疑問を伝える手段を魂は知らないからだ。


 しばらくするとその疑問の正体がわかった。黒い鴉は使役されたものだったからだ。黒い鴉は主のもとに私を案内していたのだ。鴉を使役していた人物は鴉の嘴のようなものが付いた仮面をしていて顔も性別もわからない。気づけば黒い鴉は今までいたことが嘘のように消えていた。

 その人物の足元にはやせ細った少年の死体のようなものがあった。彼の体は魂の鼓動は感じるものの肉体が既に死んでいるという不思議な状態にあった。


「やぁ、こんにちはかな。それとも久しぶり? その様子だと何も覚えていないようだね。君にはやってもらいたいものがあるんだ。そこの少年が絡んでいるんだけど、端的に言えば少年を生き返らせてほしい」


 仮面の人物は魂に向かって語りかける。仮面の人物の声をどこかで聞いたことがあるのだが、どこで聞いたことがあるのかは思い出せない。


「少年の体にはまだ少年自身の魂が残っている。それでも少年の魂が体から出ていくのは時間の問題だ。そこで君の出番だ。少年の魂と君が混じり合えば少年の魂は体の中にとどまることができる。どうだい、この提案を受け入れてくれるかい?」


 魂にはその提案を断る理由を持たなかった。自我を持ったのもつい先程の話であり、提案も悪くないように思えた。新たな肉体に受肉できるというのだから。

 魂はその場で小さく一周し、肯定の意を示す。


「はは、そうか、受け入れてくれるのか。こちらとしてはありがたい限りだよ。どうやって魂同士が結合するかだけど、君は少年の胸元の傷から体内に入っていけば良い。君は不完全だから簡単に結びつくはずだよ」


 自身が不完全と言われたことに魂は疑問を持つが、その疑問を投げかけることはやはりできない。魂は少し考えるようにその場でじっとしていたが、覚悟を決めたのか魂は少年の方へふわふわと近づく。その間仮面の人物は足元の少年から少し距離をとって、魂が少年のもとに行く様子を眺めている。


 魂が少年の胸元の傷に触れたとき、魂が激しく波打つ。その魂は森を揺蕩う魂なのか、少年自身の魂なのか、あるいは既に二つが結び付いて生まれた新たな魂なのか、その答えは誰にもわからない。わかるのは新たに生まれた魂は強大な力を持っているということだけだ。


「はは、流石アークの魂だ。魂の欠片でこれとはね。少年の方も良い魂を持っている。死体をさらってきた価値があるってものだよ」


 もう一つわかるのは新たに生まれた魂は一人の魔人によって作られたということだ。

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