第119話【スイッチ】

「十中八九、放映中に彼らは乱入してくるでしょう」


 どのタイミングで、そうしてくるかはわからない。けれど、異星の神は徳川さんたちを護衛にして乱入をしてくるだろうと、原国さんは言った。


 打ち合わせ中のその言葉通り、告解スキルの使用、説明の後、彼らは僕らの元へと来た。


 徳川さん、伏見さんもいる。


 突然の、彼らの乱入にweb中継スタッフの皆森さん、撮影スタッフの人たちが声をあげる。

 僕はそれに構わず走り、徳川さんの胸に触れた。心臓の位置。


「徳川さん、お約束の条件です」

 徳川さんは何の抵抗もしない。彼の中から運命固有スキル『信奉崇拝』を引き抜いて、剥奪する。

 

「突然に強引でいいね」


 そう言って徳川さんが微笑むと、何故か僕を抱き寄せて、伏見さんと共に手のひらを異星の神へと向ける。


「なっ、貴様ら、何を」

 異星の神の体が硬直して、動きが止まる。


「何って、アンタも聞いていただろ? 俺たちが彼らと交渉していたところをさ。異星の神様ちゃん」

 徳川さんは運命固有スキルを使えなくするか、移譲させれば味方につくと約束をした。


 異星の神から見れば、これは裏切りだけれど。


「キスしていいかな」

 上機嫌な徳川さんの囁く言葉に、有坂さんが動いた。


「いいわけないでしょ」

 僕をひったくるようにして、有坂さんが徳川さんから引き剥がす。


「ふたりまとめてでも構わないよ」


 楽しげに笑って、徳川さんが両手を広げる。

 威嚇するように、有坂さんが僕を後ろから抱きとめて「お断りします」と言った。


 僕たちと徳川さんの間に、武藤さんが立つ。


「異星の神と言えど、人間の体に入っている限りはスキルによる足止めは可能ってことだな」

「俺たちもこれやってる間はあんまり動けないけどね」


 どうやら彼らは金縛り系の何かしらのスキルを使っているらしい。僕を抱きとめた有坂さんが僕から離れる。僕は、武藤さんの背に触れる。

 武藤さんは歩を進め、異星の神が入り込んだ楓さんの前に立ち、宣言する。


「お前から、神の力を剥奪する・・・・・・・・


 頭に触れて、『神の右手』を使用した。

 『神の右手』はあらゆるスキルの剥奪、保存、移譲が可能なスキル。無論、『神の右手』自体も移譲することが、できる。


 僕たちは中継の準備の間、『神の右手』のスキルを検証した。

 僕の赤銀コインをつかって、光るひよこを僕の中から復活させて、説明を受けてそれを行った。


 そして、僕ら全員が、僕同様に運命固有スキルをふたつ得られるように調整した。

 僕がしたように、全員がその魂を削り、容量を作ったのだ。


 『神の右手』は、術者が対象者の心臓の位置か頭に触れている必要がある。


 僕がまず徳川さんの胸に触れ、『信奉崇拝』を剥奪。僕を抱きとめた有坂さんに、移譲。


 そして、武藤さんの背、心臓の位置に手を触れて『神の右手』を移譲。

 武藤さんが、楓さんの中の異星の神と共に『複製』を剥奪した。


 意識を失った彼女の体を抱きかかえて、僕の頭に触れる。僕に『複製』が移譲され、これで、異星の神は封じられた。


 光るひよこが言うには、異星の神、力そのものが神性を持つ人間の意識の主導権を得るには、相手が死亡していることが絶対条件。その上で魂の再構築が行われ力と共に主導権を奪う。


 だからこそ、運命固有スキルを持つ僕たちの誰かひとりでも死亡すれば、世界は滅んだ。

 僕たちの持つ、運命固有スキルには、異星の神の神格の一部が在るからだ。


 楓さんが意識を取り戻せなかったのは、その再構築に抵抗したためだ。15年間彼女は、抵抗を続けた。

 入り込んだ神格と知識を共有したことで、原国さんの死に戻りを停止させないように、異星の神の憎悪と15年間戦い続けた。


 けれど反魂を使ったことで強制的に、交じり合ってしまった。


 それを今引き抜いて、僕の中に。


 原国さんと武藤さんも一度死んでいる。彼らの中の神格はこの星の人類に対する悪意はなかった。

 僕と共にいる光るひよこと同じように、溶けて存在はしても主導権を奪おうとはしなかった。


 けれど、異星の神の異能を持った状態の僕たちの誰かが死ねば、それは強制的に表に出て、狂う・・、という。


 発狂した神格のすることはひとつ。世界を滅ぼす。そうやって幾度も、この世界は滅んだ。


「それで、報酬はいかほど?」

 伏見さんが僕らに右手を差し出して言う。


「我々に敵対しない限り、伏見宗旦、徳川多聞両名を殺さないこと。おふたりに告解は使わない。それを徹底します」

 原国さんが言う。


「命の保障、ってね。まあそれでいいかな。それじゃ、俺たちはこれで」

 そう伏見さんは言うと、徳川さんと共に姿を消した。


 伏見さんは徹頭徹尾死にたくないと要望していたので、それを叶える形になる。

 徳川さんの持っていた運命固有スキル『信奉崇拝』を使って有坂さんが命じれば、それは叶う。


 告解スキルは有坂さんの持つ聖女スキル由来のもの。蘇生反魂を受けた人たちにも付与されたそれを彼らには使わないよう、命じる。


 放送用の説明を原国さんがする。嘘ではないが、事実でもない。そんな話を。

 真実を告げるとリスクが高い。世界が滅んでしまえばいいという破滅願望を持つ人たちがいないわけじゃない。


 僕らや、伏見さんが殺されれば、詰むことに変わりはない。


 何はともあれ、憎悪の異星の神は封じられ、楓さんを取り戻すことができた。



 放送は終わり、そして大型地下迷宮ラストダンジョンが、その入り口を開いた。

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