第40話【ガチャスキル、レベルアップ】

「真瀬くん、ガチャボックスは出せますか」

 原国さんの言葉に、僕はストレージからガチャボックスを出す。


 そうだ。ガチャをずっとスマホ機能で使っていたけど、こうやって出せばアイテム武器装備スキルは全てカードとして排出される。


「真瀬くんはガチャを引きながら、聞いて下さい。出た物の分類仕分けは適当で構いませんので両隣の武藤くん、有坂さん、お願いします。真瀬くんはとにかく回数を引いてガチャスキルレベルを上げてみて下さい」


「わかりました」

 僕は袋からコインを取り出して、ガチャを回し始める。

 前回のスキルレベルアップの時、スキルポイントコインが使用可能になった。けれど、蘇生の方にスキルポイントコインを集中させたため、一度もスキルポイントコインでのガチャはやっていない。


 だから最初に手にしたのはスキルポイントコイン10だ。


 ボックスのコイン投入口へ入れ、カードを取り出す。



《ガチャスキルがレベルアップしました。排出されるレアリティが星1~星10となりました》



「ガチャスキルレベル上がりました。続けてガチャを引き続けますね」

「お願いします」

 原国さんが頷く。僕は次々にガチャにコインを入れ、カードをまとめて机へ置いていく。それを武藤さんと有坂さんがアイテム武器装備スキルに仕分けていく。


「それから、街中での攻撃スキルについて。今から魔術をあの窓へ放ちます」


 言うと、原国さんが窓へと手をかざし、氷魔術を発動させる。

 窓へ着弾した氷魔法は弾かれて消えた。


「このように魔術にしても武術にしても全て無効化されます」

 実際に見て驚く僕らに、原国さんは続けた。


「しかし、対人では効果を発揮します。故に現在、スキルによる死傷事故、事件も多発しています」

 最悪だ。建物は無事でも人は傷つけられる。僕は手は止めず、話を聞き続けた。


「警察官をいくら動員しても、スキルを持つ相手には有効とは言えず、逆に犠牲者が増えることになる。故にスキルを持つ警察官が対応に回っていますが正直に言って、焼け石に水です」

 それはそうだろう、と思う。攻撃の意志があったり、錯乱した魔術や武術スキル持ちを制圧するには同等以上の力が必要になってしまう。

 そしてPKをした者は、相手の全ての力を得る。


 つまり――殺人を繰り返すほどに強くなっていく。


「夢現ダンジョン未クリア者は、ダンジョンに入らなければスキルと職業を得ることが出来ないのも確認済みです。まずは市民の安全の確保、及び未覚醒の警察官をレベル1ダンションへ随時投入。覚醒者とすべくクリアを目指して貰っています」


 モンスターが排出されてしまうレッドゲートを潰しながら、全体の強化をはかる。合理的な手段だ。


 外からは区役所の緊急放送が聞こえる。

 家から出ないように呼びかけている。

 建物の中であればスキル攻撃は人に損害を与えない。テレビやネットでも呼びかけが行われているのだろう。


 状況が不明瞭だけど、動ける人たちがなんとか最善を尽くそうとしているのが伝わる。


「既に無線を通し、全署、全警察官への通達が終わっています。各所轄内での攻略が順次開始され、自衛隊も出動済み。山岳地域や離島等の僻地へ隊員を送り込み、また避難所の設置等も行っています」

 警察も自衛隊も動いている。国家としての基盤が揺らいでる中で、治安を守ろうとしている。


 なら僕は、このスキルで、ガチャを使って彼らを助けたい。


 これ以上、死傷者が出ないように。

 治安を守ろうとする人たちが、無事に家族の元へ帰れるように。



「48時間しかない中で、可能な限り合理的に治安を維持するため、スキルを持つ民間人の登用と、未覚醒でもダンジョン攻略に前向きな民間人も仮登用を行い、この未曾有の危機を乗り越えるという方向性で動いています。諸刃ではありますが、致し方ない状況となってしまいました」

 最早資格試験などの悠長なことは言っていられない。あとたった48時間で、モンスターが溢れ出して来るのだ。

 それでも、スキルやレベルを得た人間と敵対する方が恐ろしくもある。


 恐ろしいが、信じるしかない。モンスターという脅威から身を守るには、スキルやレベルは不可欠だから。


 それに人格的に覚醒させても問題がないかを調べるスキルがあるかもしれない。スキルは無数にある。どんな効果があるのか全てを知ることは難しいだろうけれど、ガチャを使用することで安全性を確保できるスキルが何か見つかるかもしれない。


「君たちにはそれぞれ、パーティーを再編成して、基本的には3人でパーティーを組み、レベル5のレッドゲートを潰して回って欲しい。そのため、森脇、そしてもう1人私の部下を呼んだ」

 原国さんが手で合図をすると、スーツの男性が1人部屋に入ってくる。


「水品睦月だ。ダンジョン事案課に5年いる。宜しく頼む」

 短く挨拶をした彼は、柔道家のようにがっしりとした体型で、髪は短く剃りあげていた。


「葉山さんにはここに残って貰い、攻略サイトの解析に協力をお願いしたい」

「了解ですー」

 葉山さんがにっこり笑って敬礼をする。


 僕たちの机には、分類されたカードが山と積まれている。

 この中に、みんなを救える力がたくさんあるように願う。


「では、パーティーの再編成を行います」

 こうして僕らは、48時間以内のレッドゲート潰滅に向けて、動き出した。

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