第37話【アポカリプスサウンド】
僕たちが通されたのは、大きな会議室だった。
刑事ドラマでよくみるタイプの長机がずらりと並び、一番手前に大きなホワイトボードが2つ、その前に偉い人用の長机と、プロジェクターもある。
「我々が一番速かったようですね。他の人たちを待ちますので、一番手前にまとまって座ってください」
原国さんが言い、僕らは原国さんの正面になる長机を選んで座る。有坂さん、僕、武藤さんの順番だ。
「何人くらい集まるんだ?」
「宗次郎くん、雛実ちゃん、それから木村さんパーティーの民間人他、把握している一部の、PKを行っていないとされる自力攻略者たちです」
原国さんが言うには、人数で言えば20人程度らしい。
「あの、僕たちが連れて帰った人たちは……?」
「勿論、彼らも別室に呼んでいますよ。既に到着している一部の人のスマホを確認した部下からの話だと、クリアはしたが自力ではない、ということでダンジョン内でのみレベルやスキルアイテムが引き継がれた半覚醒者という扱いのようです。現在出現しているダンジョンの自力クリアをすることで彼らは覚醒者となるそうです」
「なるほど、ゲームで言うところのキャリーだとそういう扱いになるわけだ」
原国さんの説明にふむ、と頷いて武藤さんが腕を組む。
「警視庁内に詰めていた部下たちが今、建物内に発生したダンジョンを攻略中です。今発生しているダンジョンにはレベルがあるようなので、葉山さんの到着が待たれますね」
「原国さん呼びました?」
ひょっこりと葉山さんが開けられたドアからこちらを覗いている。
その後ろには夜桜さんと田村さん、彼女たちを連れて来た捜査官の姿も見える。
「丁度いいタイミングでしたね。あなたのスキルで、現状のダンジョンについて教えて欲しいのです」
「わかりましたー。車の中でだいぶ調べはしたんですけれど、まずダンジョンの数はマップで見ると気持ち悪いくらいたくさんあります。それと、ダンジョンですけれどレベルがあって、あとはモンスター種別が固定されているダンジョンなんかもありますねー。ダンジョン内の地図についてはレベル20ダンジョンまでしか公開されていないですよー」
葉山さんがゆっくりとした口調で説明をする。
「なるほど、その他に気になる点はありましたか?」
「トップにあるアップデートをお待ちください、って表示ですね。何か起きるかもです」
と、不穏なことをのんびり言う。
「アップデート……」
ぽつりと呟く原国さんに、1人の捜査員さんが駆け寄って小声で何事か囁く。原国さんの表情から、穏やかさがすっと消える。
「少し席を外します」
そのまま、捜査員さんと一緒に部屋を出て行く。
「ところで木村さんは?」
木村さんがいない。そういえば、実家がここにあるのであって、彼がいるのは駐屯地なのだろうか。
「駐屯地だって。あっちの方でもいろいろやってるみたいだよー。とりあえずみんなも攻略サイト見てみて」
差し出されたスマホを受け取り、皆で葉山さんのスキル、攻略サイトでの情報を得る。
よくあるゲームの攻略サイトに似た画面だ。
何も知らずに見たら、ゲームの攻略サイトだと思っただろう。
武藤さんと有坂さんが僕の操作する画面を覗き込む。
「ダンジョンの数……すごいですね……」
ぽつりと有坂さんが言う。
メニューからダンジョン、を押すとスクロールしきれないほどたくさんの、レベル1から20までのダンジョン情報がある。その中のひとつを見ると、夢現ダンジョンで見せてもらったマップのように各階の階層マップとモンスター、宝箱の位置なども表示され、そこを押すとモンスターも宝箱の中身も詳細データが出る。
ざっと見た限り、宝箱アイテムについては武器防具ポーション類が殆ど。いくつか特殊アイテムもあった。
メニューからスキル一覧へ飛んでみる。
星4スキルまでが全てなのかはわからないけれど、膨大な量のスキル名が書かれている。
眩暈がするほどの量だ。こちらもスキル名のタップで詳細が表示されたけれど、レベル5までの説明までしかない。
星5以上のスキルやレベル6以上の詳細についての記載がないのは、攻略サイトのスキルレベルの関係だろうか。
そういえば僕のガチャもスキルレベルを銀コインで上げてから、上げていない。
僕らがサイトを見ている間、葉山さんはパーティーの仲間たちと会話をしている。
夜桜さん、田村さん。3人で、この先どうなってしまうのかという話を。
田村さんと夜桜さんはニュースサイトやSNSで情報をチェックしながら話をしているようで、表情は明るいものとは言えなかった。
状況が、よくわからない。
誰も。誰ひとりとして。
正確な全ての状況を把握は出来ていない。
目覚めて、昨日までと世界がまるで変わってしまっていた。
そしてあの夢現ダンジョンでの多数の死者。
クリア出来ず、目覚めない人。
ざっくりと攻略サイトに目を通したスマホを葉山さんに返却する。
「ありがとう、やっぱりすごいね。葉山さんのスキル」
言うと葉山さんは笑って「君のスキルの方が、この先だいぶやばい活躍すると思うよー」と言った。
「まあそうだろうなあ」
武藤さんも腕を組んで唸るように言う。
「民間人を吸い上げてダンジョン攻略部隊編成するってんなら、ある程度の装備が必要になるだろ。攻略サイトとガチャ、どちらも攻略の安全性の向上にゃ不可欠になってくる。坊主のガチャの装備は破格の性能だった。レベルが低いダンジョンなら、攻略情報がなくてもモンスター相手なら楽勝になるだろ、俺たちみたいに。あとは特殊スキルやアイテムなんかが出ればPK勢への対抗手段にもなる」
武藤さんもスマホで情報を拾いながら話す。
「外はだいぶヤバそうだが、破壊活動はどこも起きてないんだな」
建物は無事らしい。攻撃スキルを使っても、壊れないという話がSNSに散見されるという。
「……オブジェクトの破壊不可?」
ぽつりと有坂さんが呟いた。
「ダンジョンのスキルとかレベルが適用されるなら、ルールも適用される、ってことかね」
武藤さんがふむ、と考え込むように言う。
「クエスト、そうだセカンドクエストがあるって話でしたよね」
「うん、うちのチャットにも出たよ」
どうやら葉山さんたちのチャット画面にも、あの自力クリア者にあてた文言は出たらしい。
ダンジョンアプリのクエストを見るが、セカンドクエストに切り替わっていた。全て《??????》表記のままだ。
「多分ダンジョン踏破とかモンスターの討伐とかの通常クエストと、真実クエストがあるんだろうが、真実クエスト系のクリア条件がわからんのよな。確信すればいいのか、それとも別に条件があるのか」
「地下4階到着で条件クリアだったんですかね、あれって」
「そこら辺、曖昧なんだよな」
武藤さんが呟いた瞬間、遠くから鳴る鐘のような鈍重な音が空から響いた。
何重にも重なるような不思議な音だ。
そして、
『全世界の皆さんへお伝えします。星格のレベル上昇により、世界のルールは書き変わりました。言語に壁はなくなり、ダンジョンが全ての人類に開放されました』
あのアナウンスが、響き渡った。
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