第34話【合流】

「警視庁の原国です。ご同行をお願いします」


 玄関を開けると、警察手帳を提示して原国さんが言う。


「刑事ドラマみたいですね。準備は出来ています」

 僕が思わず笑うと、原国さんも微笑む。


 実在していた。本当に。いてくれているんだ。みんな……。

 チャットよりも、実際に会うと、その実感が強く湧いた。


 後ろの母に挨拶をして、僕たちは家から出て戸締りをして原国さんの車に向かった。

 ワゴンタイプの10人くらい乗れそうな車だった。


「パトカーじゃないんですね」

「パトカーですよ。覆面パトカー」

 原国さんが微笑む。運転席に若い男性、助手席に原国さん、後部座席には武藤さんがいる。

 なるほど確かに警察無線の音が聞こえる。



 武藤さんを見た母が一瞬止まった。

「どうしたの?」

「お父さんにそっくりでびっくりしちゃった」

 僕のなくなった父は20代、僕が生まれて数年で亡くなっている。


 父の話は母がよくしてくれる。とてもとても穏やかな人だったという。

 僕が誰かに優しくしたりすると、母は喜ぶ。父さんそっくりね、と言って。


 そのイメージの中の父と武藤さんは僕の中では結びつかない。

 武藤さんは優しい人だけど、割と豪快な人でもある。なので穏やか、というイメージが余りなくて、ムードメーカーと言ったほうがしっくりくる。だから少しびっくりした。


 父さんの写真は残っていない。データを保存していたディスクが壊れて取り出せなかったらしい。

 顔も知らない父と、パーティーの精神的支柱でいてくれた武藤さんが、似ているのなら、なんだかちょっと嬉しいかもしれない。


 車に乗り、シートベルトを締める。


「おっ来たな坊主。お母さん若いなー。本当にお母さん? お姉さんとかじゃなくて?」

 武藤さんがからりと言う。ダンジョンでも現実でもかわらない。

 原国さんもだ。


 ゆっくりと車が走り出す。


「あらあらお上手。真瀬敬命の母です。ダンジョンでは大変息子がお世話になりまして」

 ころころと笑って、母が言う。何かちょっと気恥ずかしい。


「こちらこそ、敬命くんのお陰で俺たちは生き延びることが出来ました。ありがとうございます」

 武藤さんが珍しく敬語で話し、母に頭を下げる。


「本当に、敬命くんには助けられました。私からもお礼を」

 原国さんが続けて言う。

 少しこそばゆいけど嬉しいな。母さんも嬉しそうだ。


「敬命から皆さんに護って頂いたことを聞いています。こちらこそ、息子を護って頂いてありがとうございます」

 母も真剣にお礼を言っている。


 母には、実感なんて殆どないはずだ。

 だけど僕の話を本当に信じてくれているから、見知らぬ2人にお礼を言って頭を下げる。


 普通なら高校生の息子から知らない大人を紹介されても困惑してしまうだろう。


「有坂さんの自宅に着きました。迎えに行きますので少々お待ち頂けますか」

 原国さんが言い、しばらくして有坂さんと両親、お兄さん弟さんが車に乗り込んでくる。


 親同士が挨拶をしあう中、有坂さんと照れくさくて目を合わせて笑った。


「これから我々は、警視庁へ向かいます。それまでに私から15分程度ですが、説明をさせて頂きますね」


 原国さんがそう口にすると、車内は静まりかえる。

 原国さんの声には、そういう性質があるのか、人に聞き入らせるのが上手い。



 簡潔に説明をした後、原国さんは、自らの部署について明かした。

 

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