18話【ドラゴンへの挑戦/クレイデュオ視点】
「挑戦権、勝ち取って参りました。姫様、準備はよろしいですか?」
ドラゴンへの挑戦権をもぎ取って城へと戻り、姫様へと跪く。
手にはドラゴンへの挑戦権を証明するカード。姫様はそれを見て、微笑む。
「勿論できていてよ、クレイデュオ。よくやりました。いい子ね」
姫様からお褒めの言葉を頂けば、それだけで天にも昇る心地になる。
姫様の声が好きだ。所作の美しさも、何もかもが。
あのバカ王子の気持ちはわからなくなはい。
姫様に全てを捧げたいという部分だけは。
だがそれ以上に、あの男の言葉はよくわからないが腹立たしかった。
つい後頭部に向けて殺気を飛ばしたが、それを意にかえす様子もなく、姫様を口説き続けた。
王宮に居たころは、こんなに神経の太いところは決して見せなかった。
まるで同じ顔の別人みたいだ。
不可解な男であることも、腹立たしかった。
姫様を騙していたことも、許せそうもない。
その上、姫様を侮辱した口の根も乾かぬうちに愛を囁くのも意味がわからない。
あの後、姫様の就寝後にシュレーゼにそう言えば、シュレーゼもあの男の腹を立てていて、延々と低い声で呪詛のようにどこがどう気に入らず腹立たしいかを語った。
呪詛のようにというか、あれは呪詛だ。
暗殺系スキルを諸々と持つシュレーゼだ。呪術系スキルの3つや4つは持っているだろう。
「チッ消されたか。聖女め」とシュレーゼが舌打ちをしていたので間違いない。
シュレーゼは俺を友人として扱ってくれているのか、俺の前ではそういう素を見せてくれることが時折ある。
それを俺は嬉しいと思う。
バカ王子とシュレーゼは自分を隠す場面と、隠さない場面がある。
同じ二面性なのに、腹が立つのと嬉しいのでは全く与えるものが違うのも不可思議ではある。
開戦まであと3日。
姫様とシュレーゼと共に、ドラゴンへの挑戦のために森へと入る。
戦争に浮き立つ心もあり、あのバカ王子への怒りも燻り、力が欲しいと思った。
あの男は姫様のお側から、俺とシュレーゼを排除しようとしているのだ。
絶対に勝たなければならないし、首を落として姫様に捧げなければならない。
確実にそうするための、力を欲する。
と、なると短期でできるレベルアップはドラゴンへの挑戦だ。
王へ申し出ればすぐに通り、こうして森の深部へとおもむいたのだ。
次代の鎮守竜の修行としても、レストライアの民の修行としても機能する挑戦。
カードを持つ、レストライアの民以外に侵入ができない森の深部に辿りつけば、そこには城ほどの大きさのドラゴンが居た。
「挑戦を申し入れしレストライアの民よ、日没まで、我が相手をする」
ドラゴンが地響きのような声で言う。
その声と共に空間が切り替わる。森ではなく、広い岩山があり、乾いた荒野のような場所。
挑戦のフィールド。
ドラゴンへの挑戦は、レストライアの民と言えど、生涯に4度のみ。
四方の守護竜にそれぞれ1度ずつ。
挑戦をするのはこれで2度目だ。心が沸き立つ。
ドラゴンは絶対強者である。戦えばそれだけで、多くの経験値を得られ、スキルが開花することもある。
森の恵みでつけた力を試し、それ以上の高みを目指す。
「参ります」
姫様が微笑むと、美声を上げ、日傘を閉じ、振るった。
斬撃が飛ぶ。地を裂くそれをドラゴンは前足で払いのける。
俺とシュレーゼはそれぞれ左右に分かれて飛び上がると、剣撃、ナイフを投げ、同時に魔力を練り上げる。
姫様はそのまま正面へと走りこみ、日傘で突きを放つ。姫様の長い髪とドレスが美しくはためく。
それを腕を振るい地面を割りいなすドラゴン。我々の攻撃も羽によって弾かれる。
カツカツと音をたて、ドラゴンの口元から火が漏れる。
ブレスだ。
岩山を飛んで、かわしたそれは、乾いた山をも溶かした。
気温が一気に上がり、汗が滲む。
なんと楽しいのか!
俺もあのブレスを吐けたのならば、どれだけ楽しいだろう。
俺も、シュレーゼも、姫様も攻撃を重ね、避け、受け更に攻撃をのせる。
岩のように固い皮膚、見据えるだけで人を恐怖させる魔眼、鋭い牙と爪、ブレス。
動くだけで地響きを起こし、足場を割る力強さ。
次に生まれ変わるのであれば、ドラゴンに生まれたい。
強さの象徴。
この時を楽しもう。
どの攻撃ならば届くのか、何をすれば効くのか。
持てるもの全てをぶつけよう。
腕が折られ、足が砕かれても、回復魔術をかければ戦い続けられる。
この高揚と喜びは痛みを凌駕する。
デバフや魔術スキルも存分に使って戦う。全力で戦うことのなんと楽しいことか!
故に、日没までの時間は、あまりにも短かった。
何度も死にかける程楽しかった。姫様との舞踏で死にかけるのとはまた別の楽しさがあった。
レストライアの民は、負傷を恐れない。
痛みも苦しみも恐れず、楽しむ。
血は魂の銀貨。その流血を持って魂を鍛える。
敵の血を浴び、己の血をも浴びる。
致命傷がどれほどのものかを知らない者はレストライアにはいない。
今回は5度致命傷を受けた。前回よりは減っている。
強く、なっている。
相対したドラゴンも、戦いが進むにつれ幾度か回復魔術を自身に使っていた。
竜の血を浴びることは、栄誉である。
今回も、その栄誉に預かれて俺は喜びでいっぱいだった。
レベルも上がり、スキルの開花も得た。
ドラゴンへと礼を述べ、森を辞す。
大金星と熱き戦いに、森を出る頃には、俺の機嫌はすっかり直っていた。
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