月が、雲に隠されました。


 わたくしは、ねやであなたに告げたのですわ。


 桜の樹の下で 穴を掘っていた男のことを。

 白く 

 どろどろとした 液体を

 その 穴の中に 注ぎ込み、

 桜を汚した 男のことを。


 男の掘った穴を埋めたら、桜の花に紅がさしました。



 お月さまは、消えていました。



 あなたは、けだるげに 聞いていて

「桜を見たい」という わたくしの願いを 叶えてくれました。


 桜は、紅を欲していました。


 わたくしは、それを叶えてやりたくって、

 あなたに 穴を掘ってと 頼みましたね。


 あなたは、しぶしぶながらも 穴を掘り、

 わたくしは、それを埋めました。


 桜は、たいへん 喜んでおりました。


 わたくしも 紅の花を見て 嬉しくなりました。


 あなたは、もう いないけど。


 あなたも 喜んでいることでしょう。



 あなたが 桜の紅となり、わたくしを こんなにも嬉々とさせたのでありますから。












 ✿ ✿ ✿


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る