3 幼馴染のエルフは、なかなか成長しない。

思春期に入る頃、ぼくは感じ始めた。



隣の家に住む同じ年のエルフの少女は、可愛い幼馴染だ。


同じ年と言っても、人間とエルフでは時間の流れが違う。


哀しい事に。



ぼくは彼女より先に成長して、そして先に死んでいく。


同じ時間を生きているのに、エルフのイリスは、ぼくよりかなり幼い。




ぼくとイリスは、放置された果樹園を歩いていた。


人に手が入らなくても、果樹は果樹で、それなりに実を着けていた。


特に栗の木は、何も変わる事なく、実を着けていた。



「ねえ、あれも食べれるの?」


イリスは栗の実を指して聞いた



「皮をむけば、ちゃんと食べれられるよ」


「どんな感じ?」


「うん、他の果実と違って、変わった味がするよ」



同じ年の幼馴染だけど、まるで好奇心いっぱいの子どもの表情でイリスは感心していた。



ぼくは成長している。


ぼくだけ成長しているんだ。


ぼくが哀しんで?いると、声がした。




「おーーーい!人間&エルフのガキども」


スライムだ!最弱の癖、悪そうだ。


ぼくはイリスを守るべく、剣を抜き構えた。



「威勢がいいな人間のガキ!」


「ガキちゃうわ!」


「ふっお前、この世界の支配者が誰だか知っているか?」



この世界の支配者?


今のところもっとも有力なのが、人類全盛期に作られたAIたちだろうか。


エルフもゴブリンもドラゴンも、未だAIを駆逐できずにいる。



ぼくは、


「AIか?」


「ふっ違うわ!お前何も知らねーな、いいかよく聞け、この世界の支配者はスライム族だ!」



「絶対違う!」


スライムが、最弱なのは古今東西変わりがない!



放置された果樹園を見渡すと、どうやらスライムたちに包囲されたみたいだ。


最弱スライムとは言え、ぼくらにとっては強敵だ。


ぼくは大きな栗の木を背にして、剣を構えた。



「なる、ここはあたしに任せて」


ぼくの背後で、エルフのイリスが言った。


まだ幼いイリスの魔法の攻撃力は低すぎるのだが。



「ほお、やる気が?数の上でも俺らは圧倒してると言うのに、笑けてくるぜ!」


最弱スライムは、悪そうに言った。



対してイリスは魔法の杖を握り、魔法を唱えた。


「・・・色気過剰!」


「?」



数秒の沈黙の後、スライムたちの様子が、何か変わった。


ちょっと顔が赤くなってる!



「おい、お前!何身体を寄せてるんだ!」


「わたしは、貴方の事が、すっごく恋しいの」


「今は、こいつらと戦ってるところだろうが!」


「恋しいのは今!こんな奴らと戦っている場合じゃない!」



ぼくらを包囲しているスライムたちは、みんなそんな状態だ。



「お前の事を愛し始めてしまった!」


と叫んでいるスライムもいる。




「今だ、逃げるよ」


イリスの声で、ぼくらはスライム包囲網を突破した。



ある程度の距離を逃げ切った後、イリスは、魔法の杖を握り、


「解除!」


と唱えた。



背後で愛を叫んでいたスライムたちに静寂が訪れた。


「・・・」


「・・・」



愛が覚めたスライムたちを背後にイリスは言った。



「お家に帰ろう」


「うん」



このファンタジーになった世界で、ぼくらは無事に、今日も一日を終えることが出来たらしい。

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