幼馴染のエルフは全部見えちゃうそうです

健野屋文乃(たけのやふみの)

1 エルフの民族大移動と赤煉瓦のカフェ

ぼくは異世界に来たわけではない。世界がファンタジー化したのだ。



エルフやらドワーフやらが、人間世界に突如やってきたら、そりゃー戦争になるよね。


文明の衝突って奴だ。


エルフやドワーフは、北極圏から南下を始めた。


ゲルマン人の大移動を越える規模だ。



そして魔法対科学の戦いが始まった。



世界は、そんな状況なのだが、ぼくはめっちゃ可愛いエルフに出会ってしまった。


最前線の街で。



         ☆彡




「この人間め!良くもわたしの裸を!」


その声でぼくは目覚めた。


そこには半裸のエルフが弓を引いていた。


エルフは躊躇することなく矢を放った。



それはまるで、かなり凶暴な目覚まし時計だ。



放たれた矢をぼくは素手で掴んでしまった。


ぼくにそう言った能力があったとは思えない。



それは1億年に1度起こるかも知れない、奇跡だったのかも知れない。



何故ならぼくは、世界がこんな状況にも関わらず、ゲームに熱中できるレベルのダメ人間なのだ。


そして矢を素手で捕まえる人間に、半裸のエルフは恐怖したと思う。


恐怖、そう吊り橋効果って奴?



ぼくらは恋に落ちた(自称)


現時点では、かなり危険な恋だ(自称)




「なんで半裸なの?」


今のこの空間では、きっと猛者のぼくは聞いた。


半裸のエルフは、微かに良い香りを漂わせていた。


「良い部屋だし、お風呂にでも入ろうかなって、そしたら貴殿が」




要するに定住先なのか?


主要幹線道路から外れたこの地域だし、地形的に重要ではないこの辺りは、戦場からかなり外れていた。



そして、ぼくが住んでる家は、元は赤煉瓦のカフェでかなりお洒落だ。


センスの良いエルフなら、気に入りそうな物件ではある。


なのに、その物件に猛者っぽい奴が住んでいる。



エルフは相当邪魔な生き物を見る目で、ぼくを見た。


あれ恋に落ちたはずでは。



さらにぼくの飼い猫の猫は、エルフにすりすりしていた。


エルフの良い香りが気に入ったのだろう。そんな顔だ。



お前!裏切るの早すぎないか?



「貴殿は戦わないの?人類の為に」


「人類の為に?」


「同族の為よ」



ぼくはため息をついて、


「残念ながら、もう人類は、ほとんど残っていないよ。


人類文明を引き継いだのは、アンドロイド。機械だよ。


政府と呼ばれている物も、ほぼアンドロイドが支配していると言っても良い」


「・・・」


エルフは哀しげな顔をしただけで、その件について何も言わなかった。


そしてテーブルに置いてある銀紙に包まれた物を見つけて、


「これは?」


「ビターチョコレート、人間の食べ物だよ」


「食べて良い?」


「ちょっと苦いよ」



「苦いね」


「うん」


この後、幾つかの人種がエルフと合流したらしい。



つづく

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