喫茶去 テーマ「春」について

 レギュレーションをクリアしたすべての作品を読んで感じたことは、テーマ「春」に対する作家各位のスタンスの差が激しかったということである。真正面からわたしの「オーダー」である春について書いてくれた作品。作者の書きたいテーマの中に春を添えた(あるいは書き足した)作品。そもそも春をあまり考えていない作品。参加者各位には、自身の作品がどれに当てはまるのか、振り返ってみてほしい。


 さいかわ卯月賞は賞を決める性質上、序列が発生する。三者三様の作品があったとして、上記の三パターンのうち、オーターを出したわたしがどれを上に選ぶだろうか。いや、わたしだけではなく、これが公募だったらどうだろうか。説教がましい話になってしまったが、作品の品質以前に、大事にすべき事柄があることを理解していただければと思う。


 とはいえ、実は「春」というテーマはとても難しい。理由は二つあって、選択肢が狭くて「おきまり」なネタになりがちなこと。そして、我が国には梅や桜という偉大な存在があるために「新鮮さ」が出し辛いこと。――出会いと別れの春。桜の下でなんとやら――。どうしてもそんな「ありがちな春」にイメージが束縛されてしまう。作家だけではない。読者であるわたしもそうなってしまうのである。


 そんな中、参加者各位はとても頑張って書いてくれたとは思う。ツッコミ役の「作家としてのわたし」が顔を出すこともなく、「読者としてのわたし」だけが安心して読むことができる作品が予想以上に多かった。その結果、入選できるレベルの作品が団子状態になっている。詳細に点数をつけているわけではないのだが、イメージ的には、最終選考候補の基準が80点前後だとすると、その80点の±1点差内に十作以上集まっている感じで、最終選考候補の選定に非常に苦労をしているのだ。――無論、嬉しい限りである。


 話を戻すが、読者としてのわたしは、テーマに対して一貫した世界観を提示してほしいと思って読んでいる。最初に春を出して終わりではなく、春を感じられるラストと読後感を期待しているということだ。これは何も特別な注文ではないと思う。わたしが「カレー」を食べたいとオーダーしたのなら、食後も「おいしいカレーでした」で終わりたいのは、自然な欲求ではないだろうか。「たしかにカレーを食べたいと言ったし、味もおいしいけれど、食べている途中で胸やけをして、しばらくカレーなんて見たくもなくなった」と客であるわたしに言われたら、料理人であるあなたはどんな顔をすればいいのかわからないと思うのだ。


 テーマというのは実はとても大事な「オーダー」であることを再認識していただければと思い、書いてみた。何かの参考になれば幸いである。


※喫茶去(きっさこ) 「まあ、お茶でもどうぞ」という意。

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