ローニャを取り巻く環境2

「あらあら、皆様そんなに笑っていられる立場なのですか? 養女となった私の身分は王族なのですよ? これを父が知ったらどうなるのかしら? フェルナンド、どう思う?」



尻もちをついた私に手を差し伸べたフェルナンドさん。あえてフェルナンドさんに話を振る。

お茶会の席には令嬢以外に各家の従者や侍女も待機しているし、王宮の従者が接待している。

もちろん護衛も各所にいて黙って済ませるには難しいはずだ。


皆の注目が集まる中、フェルナンドさんは令嬢達に聞こえるように答えた。


「国王陛下も王妃陛下もローニャ様の事を溺愛しております。この事を知ればタダでは済まされないと思われます」


陛下が直接付けてくれた護衛騎士の発言は重い。揶揄い半分でやったのだろうが、陛下という言葉を聞いて令嬢たちは顔色が悪くなり黙ってしまった。


「ふふっ。もちろん参加した皆様のお家には抗議が届くと思います。楽しみになさって下さいね? あぁ、本当に、寂しい限りです。皆様は私が普段何をしているのか知らないようですし、この場で改めてお話しておきますね。

私も姉も怪我人の治療を毎日しております。

魔獣の脅威に曝されている今日、治癒魔法を使うのは私と姉だけです。お分かりいただけます? それに私は研究者となるために日々勉強をしておりますの。魔法を使い、大地を潤す研究です。

先日王宮所有の畑の収穫が済みました。収穫量は前年の二倍となったのです。素晴らしいでしょう? まだまだ研究は始めたばかりなのですが……。本当に、寂しい限りです。領地を繁栄させる事を拒否される方がこんなにもいらっしゃるなんて……」


そこまで言うと、令嬢達は今にも泣き出しそうな勢いだ。まぁ、仕方がないわ。私に喧嘩を売るんだものそんな人に協力なんてしたくない。ぷんぷんよ!


「グレイス義姉様、仲良くなりたいと思っていましたが、悲しいです。残念でなりませんがこればかりは仕方がないですよね。私のようなお茶会のマナーも分からないデブはお邪魔のようですから研究に戻りますね。わざわざお茶会に呼んでいただきありがとうございました」


私はフェルナンドさんのエスコートされてその場を後にする。


ざまぁみろだ!

彼女達は馬鹿なのかな?

絶対馬鹿だよね?

なんで分かっていないんだろう?


不思議に思いながら研究所に戻る。


「ナーニョ様、お帰りなさい。案外早かったですね」

「マートス長官、お茶会って強制参加なの?」

「命令されない限りは強制参加ではありません。ただ、派閥や力関係を気にして参加している人も多いですね」

「貴族って面倒だよねー。私はこうして研究だけしていたいっ」

「ナーニョ様とローニャ様はお茶会や舞踏会をほぼ免除されているので気にしなくてよいと思いますよ。それに今日のお茶会の事は必ず陛下の耳に入るでしょうからグレイス妃には厳重注意が下されると思います」

「これ以上関わりたくないなぁ。あんなのでも次の王妃なんでしょう? アリエナイ!」


怒り狂う私を研究所の人達に宥められ、私はまた研究に戻った。

その後は何事もなく私は勉強を続けていたけれど、父や母の耳に今日の出来事が入っていた。

夕食時、いつものように食堂に入るといつもいるグレイス妃が居ない事に気づいた。

どうやら気分が優れないとグレイス妃は無理やり実家へ帰ったようだ。ナーヴァル兄様は不機嫌だったけれど、口を開くことは無い様子。


妻が人前で妹を馬鹿にしたことを流石に不味いと分かっているのだろう。


「ローニャ、あまり無理するな。兄貴、グレイス妃をしっかり抑えろ。放置していると王族を軽視し、馬鹿にする奴が増えるぞ?」

「……あぁ、分かっている」

「ローニャ、心配しなくてもいいわ。私の方から今日のお茶会に参加した家に抗議をしておいたからね。大事な娘を傷つけるなんてグレイスは何を考えているのかしら。あの子も可哀想な子なのにねぇ」


母の最後の言葉に引っかかりを覚えたけど、それ以上突っ込んで聞くのはいけないような気がして軽く相槌を打って別の話題になった。


翌日から続々と令嬢達が謝罪に訪れたのは言うまでもない。

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