第36話
「お姉ちゃん、私王都の食堂というところで料理を食べてみたいの! 騎士さん達が言ってたんだ。有名なお店があるらしい」
「じゃぁ、エサイアス様に言ってみよう。エサイアス様の許可が出ればそこで食事をしようか」
私達は生成のシャツとズボン、帽子を被って玄関ホールに向かうとエサイアス様もラフな格好をしていた。
「お待たせしました」
「いや、待っていないよ。二人とも可愛いね。王都は治安がいいけれど気を付けてね」
「「はい!」」
そう言うと私達は邸を出て歩き始めた。
馬車から見る景色も新鮮だったけれど、歩いてみると見慣れない物が多くて新鮮に映り、とても興味深い。
もちろんはぐれないよう「ローニャと私は手をつないで歩いているわ。
「二人とも街まであと少しだけど、疲れたらいつでも言ってくれ」
「はい」
街の中心部に向かうにつれて人通りが多くなってくる。
今日はロキアさんからお小遣いを貰ったので露店で何か買おうとローニャと相談していたの。
「エサイアス様、何がお勧めですか?」
「そうだね、王都名物はグァルロームという食べ物かな。大きくて日持ちのするんだ。グァルという動物の肉を塩漬けして燻製にしたものだよ。偶にうちでもロティに乗っているだろう?」
「あれなんですね。私は美味しい木の実が食べたいかな」
なんだかんだと雑談しながら露店街を歩く私達。
様々なところから露天商の声が飛んでくる。その声に引き寄せられる人達。
野菜や果実、書籍を売る店もある。
「ナーニョ嬢、ローニャ嬢、二人にこれはどうかな?」
エサイアス様は髪飾りを私達に見せた。
「王都は職人も多いから細かな装飾を作る人が多いんだ。普段使いならこの辺はどうかな?」
「わぁ!! 可愛いっ。これ、欲しい!」
ローニャは小さな花が付いた髪飾りをとても気に入ったようだ。
花の部分はガラス細工なのだろうか。
私にはよく分からないけれど、とても細かな細工がされていてとても綺麗だった。
「二人ともお目が高い。ここだけの話ですが、王太子殿下もお忍びで来て買われるのですよ」
「そうなの? 凄いねー」
「店主、二つ買うよ」
「まいどあり!」
私達は鞄に入れて散策を続ける。
「エサイアス様、騎士の人達が言っていた美味しい料理を出す食堂に行ってみたいわ!」
「ローニャ嬢が聞いたのはマーボの店のことかな? あそこは騎士達がよく行く店だ。私もよくあの店には行くよ」
「美味しいの?」
「あぁ。ファラナ肉のステーキが美味しいかな。他にも色々な食べ物があるから行ってみようか」
「うん!」
エサイアス様はこっちだよと私達と歩いていく。
五分も歩かないうちに辿り着いたわ。『食堂マーボの店』という店の名前らしい。
私達はワクワクしながら店に入ると、レンガ造りで長テーブルが幾つか置いてあり、空いているスペースに座って店員を呼ぶというスタイルのようだ。
昼前という事もあって人はまばらだが、私達の後からも人が絶えず店に入ってくる。
席について壁にあるメニュー表を読む。
私はゆっくりと文字を口に出して確認しながら読みあげるけれど、ローニャはスラスラと読んでいる。
……ローニャは凄い。羨ましい。私も勉強しなくちゃいけないわね。
「二人とも食べるものは決めたのかな?」
「私はバーヤ魚のパスタ! お姉ちゃんは?」
「よく分からないけど、ナー? ベナの煮込みを頼んでみるわ」
ローニャは勢いよく手を振り、店員を呼び注文した。
「どんなのがくるのかなぁ?」
ローニャはワクワクした表情で周りの様子を見ている。尻尾を出していたならきっとヒョコヒョコ動いていだだろう。
「ローニャちゃん、本当に食べに来てくれたんだ」
声のする方に視線を向けるとそこには騎士服を来た人が三人立っていた。
どうやら先日ローニャが治療をした人達のようだ。
私とエサイアス様に気づくと途端に彼らは畏まった状態で礼をしている。
「俺達は今、休日だから気にしなくていい」
「は、はい!」
「先日はローニャがお世話になりました。傷はしっかり治療できたでしょうか?」
「もちろんです! 僕は腕を骨折していだのですが、この通り! 昨日から仕事に復帰しています」
「私もローニャさんに治療して頂きました」
「そうだよー。このお兄さんは鼻が曲がっていて痛そうだったんだー」
「そうなんです。医務官からは治っても元の顔には戻らないと言われていたのですが、こうして治療して頂いて感謝しかありません」
もう一人は同僚のようだ。
「ちゃんと治って良かったね! また美味しいお店を見つけたらローニャに教えてね!」
「わかったよ! 必ず教えるからね!」
「じゃぁね~」
挨拶をした後、彼らは少し離れた席に座った。
相変わらずローニャは世渡り上手だわ。姉の私よりもずっと強かだなと思ってしまう。
素直でいい子でとても賢く強かなローニャをちょっと自慢だと思うし、羨ましくも思ってしまうナーニョ。
その様子をエサイアスはただ見つめていた。
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