第34話

 助手のエリオットの案内で病室に着いたナーニョ達。


 昨日ローニャは三分の一程の患者を治療したのだろう。


 広い部屋に詰め込まれるようにいた騎士達。昨日に比べて圧迫感が無くなったとはいえ、まだ三十人近くベッドで寝ていた。


「エリオット医務官、今日もローニャちゃんは治療してくれるのだろうか?」

「いえ、ローニャ殿は今この国の言葉の勉強をしています。今日はローニャ殿の姉、ナーニョ殿がおられます。研究所の新しい道具の試験に来られたのです」

「ローニャちゃんの姉? 君も治療が出来るのかい?」

「少しですが」


 話し掛けて来た騎士を無視するように第二研究室の研究員は私に話し掛けてきた。


「色々と騎士達が言ってくるとは思いますが、気にしなくていいですので。では試験を始めましょう」


 無視された騎士は不貞腐れながらも私達のやる事に興味があったようでじっと見ている。


 研究員が取り出したのは幾つかの指輪。


 どの指輪にも私が使っているヒエロスと言葉が刻まれている。


 どれも同じように見えるけれど、一つだけ金色だ。

 それだけは素材の違いを一目で見てわかった。


 まず、金色の指輪をつけてみる。少し魔力を通してみるとやはり金色の指輪は魔力がよくとおるようだった。


「騎士様、昨日はローニャが五月蠅くしてしまい申し訳ありません。今から私がローニャに変わって治療をしますね」

「あ、あぁ。頼んだ」


 そうして一番近い騎士に魔法を使う。


 魔力の通りが良いせいか一瞬で治療は完了したようだ。


 ゆっくりと体調を確認するような時間はないようだ。そして私の持っている指輪に比べると魔力を多く使っている感じがする。


 すぐに自分の指輪をつけなおし、騎士の体調を確認すると怪我をした箇所以外の古傷も治していたようだ。


「おぉぉ! 治ったぞ!! ナーニョさんといったね。有難う!! 一瞬だった! すげぇぇ!」


 騎士の喜びとは反対にあくまでも冷静な研究員。


 私は無愛想な研究員の代わりに笑顔で微笑んだ。


 騎士も研究員はいつも研究以外は興味が無いのを知っているのか私に有難うと感謝してくれている。


「回復したならすぐに騎士団の詰所にどうぞ。ナーニョさん、使い勝手はどうでしたか?」

「この指輪だと魔力で身体の弱っている部分を探す間が無いほど治療が一瞬で終わります。

 ただ、魔力の通りがよすぎて魔力を使いすぎてしまう事が不安です。治療を行うというより攻撃魔法か上位魔法を入れた方が良いような気がします」

「なるほど。では次にいきましょう」


 先ほどとは違う指輪を受け取り、隣の怪我をした騎士に話し掛けた。


「治療していきますね。痛い場合すぐに言ってくださいね」


 先ほどの指輪とは違ってゆっくりと流れ出す魔力。


 ただ少し魔力の流れに抵抗があるような気がする。先ほどと同じように怪我を治療していく。


「お前! 顔の傷が無くなっているぞ!?」


 向かいにいた騎士が治療をした騎士に言った。


「本当か? 俺のハンサムな顔が取り戻せたのか!! 確かに顔の痛みが無くなった。ナーニョさん有難う! これで世の女性を不幸にさせずに済む」


 彼の言葉にドッと笑いが起きた。


「治って良かったです。これからは女性に恨まれることはないようにして下さいね」


「ナーニョさん、どうでしたか?」

「魔力の通りは悪くなかったのですが、少し抵抗を感じました。その分魔力はロスがあるような感じです」

「なるほど。では次をお願いします」


 こうして幾つかの指輪を試してみた。


 どの指輪も結果として治療する事が出来た。


 その中の一つに使い勝手が良い指輪がったのが幸いだった。


 研究員にローニャの分も同じものが欲しいと言うと、すぐに用意してくれるようだ。


「ナーニョ様、一応ヒエストロの指輪も作ってみたのですが、使ってみますか?」


 材質は先ほどとは違い銅鍋のような色をした指輪に父や母の指輪を見せた時のような小さな装飾がされてあった。


 私が指輪の形状を伝えた物を再現してくれたようだ。


 不安はあったけれど、怪我をした人達の怪我が少しでも回復出来るのならやってみる価値はあるのではないかと思い指輪を受け取った。


「これは、家にあった銅鍋と同じような色をしていますね。では試してみます。騎士様方の怪我が少しでも早く治りますように」


 私はそう口にした後、範囲魔法の『ヒエストロ』を唱えた。


 指輪は魔力の通りが良いようだ。


 ジワリと波紋を描くように騎士達を包んでいく光。怪我人が多いせいか魔力を根こそぎ持っていかれるような感覚に陥る。


 耐えきれずに片膝を突いてしまう。


「ナーニョ殿!!」


 頑張っていたけれど、魔力が底を突き光がフッと消えてしまった。


「……ごめんなさい。治療しきれませんでした」


 私一人では怪我人を全員治療する事は出来なかったようだ。残念そうにしているけれど、騎士達は興奮していた。


 どこまで治療が出来たのか分からない。


 私はすぐさまフェルナンドさんに抱えられた。私は指輪を研究員に返す。


「ナーニョさん、素晴らしい結果をみせてもらいました。試作品でここまで披露して頂けるとは。どれほど治療が出来ていたか確認します。ナーニョさんは研究室にお戻り下さい」


「この指輪は使えたけれど、対象人数を絞れなかったり、魔法にムラが出ていたような気がします。最後まで協力出来なくてごめんなさい」

「十分ですよ!!」


 興奮した研究員はこれから一人ひとり怪我を確認していくようだ。


 騎士達は完全とはほど遠いながらも身体の痛みが軽減した事や光に包まれた事に感動していたようだ。


「ナーニョさん有難う!」


 騎士達は感謝の言葉を口にする。


 私は疲労感と共に急激な空腹に襲われて会釈するだけで精一杯だった。

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