異界の穴から落ちてきた猫の姉妹は世界で『指輪の聖女』と呼ばれています（旧指輪の聖女）

第27話

「今日はマートン長官とどんな話をしたんだい？」

　夕食時はいつものようにエサイア様はニコニコしながら聞いてきた。

「今日ね、陛下が儂の孫にならないかって言ってたの。でも宰相さんに止められていたんだよ。

　それに魔法研究所に行って魔法を披露したんだ。みんな驚いてたの。凄いでしょ」

「そうだったんだね。ローニャ嬢もナーニョ嬢も可愛いから狙われるのは間違いない。後ろ盾が必要だろうと陛下達も考えているんだね」

　研究所の人達の驚き具合からみても今後、私達の身に危険が及ぶ可能性はナーニョ達も感じていた。

　ローニャも自分達を守ってくれる陛下達に気に入られようと努力しているのかもしれない。

　自分の事で一杯になっている私。

　少し姉としてほろ苦い思いだ。

　翌日も馬車に乗り城へと向かう。

「エサイアス様、行ってきます！」

「あぁ、気を付けて。帰りは迎えに行くからね」

「「はぁい」」

　そう言って私達は騎士団の詰所を通り抜けていく。

「おはようございます！」

「おはよう。ナーニョ嬢、ローニャ嬢。今日はシャツとズボンかい？」

「はい。尻尾の出る動きやすい服装を侍女さんにお願いして用意してもらったんです」

　帽子はしっかりと被っている。研究員達と軽い会話をしてから長官の元へいく。

「おはようございます」

「二人ともおはよう。昨日は疲れただろう？仕事とはいえすまんない。

　今日は昨日の本の解読と治療をしてもらいたいんだ。

　怪我人は増える一方で国も困っているんだ。少しでも戦力は多い方がいいからな」

「分かりました」

「私もお姉ちゃんほどではないけれど、頑張るね！！」

「こんなに幼子にまで手伝わせるなんて心苦しい」

「マートン長官、お願いがあるのですが……」

　私は思い切って長官にお願いをする事にした。

「どんな願いかな？」

「私達はこの世界で生きていく事になると思います。

　でも、ここで生きていく術を教えて貰いたいのです。食事のマナーはエサイアス様のお邸で教えて貰っています。

　ですが、その他の事になると人を呼んで教えて貰うわけにはいかず……」

「そうだな。獣人である君達の事をまだ他には伝えていないからエサイアス様の邸で家庭教師を付けるのは難しいだろう。

　おい、ロード、ゼロ。お前達が読み書きを教えてやれ。マイアはマナーだ」

「分かったヨー。任せテー」

　……良かった。

　ローニャは幼い（と言っても中身は十一歳だが）ので日中は勉強を教えてもらい、私は隙間時間に教えて貰うことになった。

「早速で悪い。昨日はマイアに書記を頼んだが、今日は王宮から特別に書記官を借りてきた。昨日の本を翻訳しながら新たな資料にしていきたいのだ」

「分かりました」

　そうして午前中、私はマートン長官の横で書記官と資料作りとなった。

　ローニャはロードさんとゼロさんの間に椅子を置いて雑談をしながら読み書きを教えて貰っていた。

「お昼休憩です。食事をお持ちしました」

「フェルナンドさん、有難う！　お腹ペコペコだったの」

　休憩の鐘が鳴り、研究員達は王宮の食堂へと向かう。

　私達は混乱を避けるために当分ここで食事を摂ることになるらしい。

　先ほどの資料作りはかなり時間が必要になりそうだ。

　読み上げた物を書きとるだけなら早いのだが、マートン長官は気になった箇所にその都度質問していく。

　この質問はまた別の紙に記録されるのだ。

　一言一句漏らすことがないよう書記官は大変だろう。

「エサイアス様の邸の食事を元に用意したものだそうです。二人とも好き嫌いはありますか？」

「わざわざ有難うございます。好き嫌いはあまりないですね」

「私もなーい。何でも食べられるよ」

「それは良かったです。ほらっ、獣人は肉しか食べないのではないかと陛下達は心配していたようです」

　彼らの中では『獣人は獣』という考えがあり、私達に気を使っているのだろう。

　実際獣人寄りでトラや豹等の肉食獣と呼ばれる動物を祖先に持つ人はお肉を好んで食べるのは間違いない。

「そうだったんですね。私達は人間に近いので雑食なんです。特にフルーツや木の実が好きでよく食べていました。食事は問題なく食べられると思います」

「わかりました。嫌いな物があればすぐに言ってくださいね」

「あ、ついでのお願いがあるのですが良いですか？」

「なんなりと」

「えっと、午後から治療に入ると聞いてるのですが、私達は魔力を使うとお腹が減るのです。出来れば治療が終わった後に何か食べる物を頂けると助かります」

「了解しました。用意しておきますね」

　こうして食事を終えた私達はマートン長官と一緒に医務室へ向かう事になった。