第25話
声を掛けてきた三十代に見える男性。
白い服を着ていた。部屋には五名の研究員がいるようだ。
私達が入ってきた部屋は第一研究室らしい。第五研究室まであるのだとか。
何を研究しているのかといえば、異次元空間を主として研究しており、対魔獣用の武器や薬品の開発を行っているらしい。
「あぁ、ただいま」
「後ろのお連れ様は……?」
「あぁ、その事なのだが今から緊急の会議を開くから第一会議室に参加できる全ての研究員を集めてくれ」
「全ての研究員、ですか?」
「あぁ。今すぐだ」
「承知いたしました」
その男の人は不思議そうにしながらも他の研究室に声をかけて呼びにいった。
ナーニョとローニャは不安そうにしながらもマートン長官の後ろにぴったりとくっつくようにして第一会議室へと入った。
この第一会議室というのは研究員全て揃って会議が出来るような大きな部屋となっていたわ。
席も予め準備されているようで次々と研究員達は席に着いていく。
ある程度の研究員が集まった所で長官は立ち上がり声を出した。
「急に呼び出してすまない。だが、緊急事態が発生したのだ。情報共有のためこの場に皆を呼んだ。そろそろ始めてもよいか?」
室長を始めとした研究員達は静かに頷いている。
「先ほど、国王陛下からの呼び出しに参上した私だが、陛下よりここにいる二人の令嬢のご協力を得られる事になった。
右に座るのがナーニョ・スロフ嬢、左に座るのがローニャ・スロフ嬢だ。
二人とも帽子を取ってもらえるだろうか?」
マートン長官の言葉でナーニョ達は帽子を脱いだ。その瞬間にどよめきが起こった。
「いや、まさか、そんな事が……?」
研究員達はお互いの顔を見ながら信じられないような顔をしている。
「みんなも見て思っただろう。彼女達はこの世界の人間ではない。短期の空間から落ちてきた獣人だ」
彼の言葉に一層どよめきが広がった。
そして室長の一人が『静粛に!』と声をかけて一斉に会場は静まり返る。
「彼女達はまだ幼いながらも魔法が使える。回復魔法や異次元の空間が開くのを防ぐ魔法が使えるようだ。
彼女達からの話を聞き、私達の研究が一歩でも二歩でも前進する事を願っている。
明日から毎日第一研究室に来てくれる事になった。
質問がある場合は予め準備をして第一研究所室長に確認しておくように。何か質問はあるか?」
誰もが興味津々の様子だが質問を躊躇っていると一人の研究員が手を挙げた。
「二人は魔法が使えると言いましたが、この場で見ることは可能なのでしょうか?」
「ナーニョ嬢、私もまだ見ていない。見せることは可能か?」
「はい。お見せするのは可能ですが、怪我人はおられるでしょうか?」
ナーニョの言葉に一人の研究員が手を挙げた。
「俺は役に立ちますか?」
どうやら彼は先日護衛騎士と一緒に魔獣討伐に行き怪我を負ったようで顔を白い布で覆っている状態だった。
「あぁ、丁度良かったな。ゼロ、前へ来い。ゼロは先日魔獣の攻撃で左目を損傷し失明に近い状態、背中も割かれ、未だ怪我が治りきっておらん」
なぜその状態で仕事をしているのかは疑問だが、それだけこの世界の人間は必死に魔獣と戦っているのだろうと考え、一人納得するナーニョ。
ゼロは私達の前で用意された席に座ると白い布を取り、服を脱いだ。
目の周りや背中は相当深く傷を付けられたようで傷が治りきっていない。
痛そうな見た目にローニャは震えている。
私はローニャに見ているように伝え、彼の前に立った。
「ゼロさん、では治しますね。『ヒエロス』」
私は彼の肩に手を当てて魔法を唱えると淡い光は彼を包み、ゆっくりと怪我を治療していく。
その様子を一瞬たりとも見逃さないように凝視している研究員達。光が消えると治療の終わりを告げる。
「治っている! 凄い! ナーニョ嬢! 有難う!!」
その言葉と同時に会場から割れんばかりの拍手が鳴った。
ローニャは拍手に驚いてマートン長官の後ろにぴょんと隠れてしまった。
「静粛に! ナーニョ嬢の魔法を私達はこの目で確認した。これは奇跡としか言いようがない。そうだろう? 神は我々に一筋の光を与えてれた。
これから彼女達の協力でこことは違う世界の話や魔法の話、異界についての話を聞き、研究を進めていく。では各自、研究室に戻るように。解散!」
研究員達は興奮冷めやらぬまま各研究室へと戻っていった。
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