第23話

 翌日は昨日と同じようなワンピースに帽子を被ってエサイアス様と登城する。


 ワンピースも嫌いではないけれど、動きやすいズボンが良いとマーサさんに話をする。


『今日は用意していないけれど、明日には用意しておきますね』と準備してくれるらしい。


 この世界でも男女共にズボンは着用するらしい。


 貴族令嬢は基本的にワンピースやドレスのようだ。


 昨日は謁見の間に呼ばれたが、今日は別の場所に案内されるようだ。


「こちらでございます。ナーニョ・スロフ様、ローニャ・スロフ様が登城されました」

「入れ」


 案内役の従者と共に入った部屋は執務室なのだろう。


 大きな机が中央にあり、陛下が座っている。その前には文官達も忙しなく仕事をしていた。


 エサイアス様は陛下に口上を述べ、挨拶した。


「陛下! おはようございますっ」


 ローニャはゴロゴロと喉を鳴らさんばかりに陛下に元気に挨拶をする。


 臣下ではないから口上を述べる必要はないけれど、一国の王様にその挨拶はないだろうとナーニョは頭が痛くなった。


「陛下、妹がすみません」

「よいよい。ローニャは可愛いのぉ」


 これでも十一歳ですと言えないナーニョ。


 一気に成長すると言葉も成長するのだということにしておこう。


「今日はローニャの好きな木の実を用意させている。そちらに座って話を聞こう。エサイアス、お前は騎士団へ向かえ。心配はいらんぞ?」

「は、はい。では職務に戻ります。ナーニョ嬢、終わったら私を呼んで欲しい」

「分かりました」


 エサイアス様は私達を送り届けた後、仕事に戻った。


 団長である彼はきっと忙しい身分だろう。


「ナーニョ、ローニャ。そこに座るといい。今マートス長官を呼んだ。すぐに来るだろう」


 私達は陛下の机の左側にあるソファに座った。私達がソファに座ると、陛下は向かいに座り、従者は私達にお茶と木の実を出した。


 幾つかの種類の木の実が皿に乗せられてどれも見たことがない木の実だった。


「うわぁ。嬉しい。食べてみてもい~い?」

「あぁ、もちろんだ。二人のために用意したんだから気にせず食べなさい」


 陛下の言葉にローニャは遠慮なしに一粒口に入れる。

「陛下、美味しい! ありがとう!」


 私もドライフルーツを一つ貰い口に入れると甘さに驚いた。


「美味しいです」

「そうかそうか、一杯食べておくれ」


 そう言っている間にマートス長官と宰相が執務室へとやってきた。


「お呼びでしょうか?」

「まぁ、そこへ座れ。この部屋にいる全ての者、今から話すことはこの世界に激震を与えるものである。この二人を丁重に扱うように」


 私達以外の宰相をはじめとした部屋にいる従者、護衛騎士、文官やマートス長官も陛下の言葉に立ち上がり、頭を下げている。


「陛下、私が呼ばれた理由はこのお嬢さん二人にどう関係しているのでしょうか?」


「マートス長官、彼女はナーニョ・スロフ、こっちはローニャ・スロフという」

「ナーニョ・スロフです。マートス長官様、宜しくお願いします」

「私の名前はローニャ・スロフです」


 マートス長官は細身の長身で少し怖い雰囲気を醸し出しているせいかローニャは私の腕を掴みながら挨拶をした。


「ナーニョ嬢、ローニャ嬢、陛下の執務室に来て帽子も取らないとは、マナーも知らない平民か?

 一応マナーのなっていない君達にも挨拶はしておく。異次元の空間を研究している研究所の長官ジョイン・マートス・ユインだ。宜しく」


 帽子を被ったままこの部屋に居た私達をとても怒っているようだ。


 私達はどうすれば良いか分からず目を泳がせていると、陛下から声が掛る。


「マートス長官、そう言うってやるな。これには深い理由があるのだから」

「……理由ですか?」

「ナーニョ、ローニャ、帽子を取ってくれるかい?」


 陛下の言葉に私達は頷き帽子と隠していた尻尾を見せた。


「……!? どういうことでしょうか??」


 ローニャはすっかり怖くなって耳がたれ下がっている。


「彼女達はマナーを知らない以前にこの国、いやこの世界の人間ではないのだ」

「なんと! 本当なのでしょうか?? 私が呼ばれたということは、異次元の空間からやってきたという事ですか?」


「あぁ、そうなんだ。彼女達は猫種の獣人だそうだ。驚く事に短期の空間の方からやってきたんだ」


 マートス長官は驚いて私達を凝視している。


「そ、そうか。この、容姿では確かに目立ってしまう、な。それに異世界から来たのならマナー以前の問題だ。ナーニョ嬢、ローニャ嬢すまなかった」

「いえ、こればかりは信じられない事ですから」

「可愛い娘達だろう? この子たちはこんなに可愛いのに魔法も使えるのだ。凄いだろう?」


 陛下は自分のことのようにマートス長官に話をする。


 少しくすぐったい気持ちになりながら黙って二人の話を聞いている私達。


 宰相は相槌を打つように頷いている。

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