二転三転
文聘軍が動き、襄陽の曹操軍が対敵した事は、揚州の孫権の耳に入った。
「遂に劉表と曹操がぶつかったか。現地からの報告はあるか?」
「報告によりますと、小競り合いは起きておりますが、本格的な衝突は起きていないとの事です」
「そうか。他に報告はあるか?」
「後は、蔡瑁が水軍を率いて河を下って何処かに向かったようですが、何処に向かったかは、現在調べております」
「報告ご苦労。下がって良い」
報告した密偵を下がらせると、孫権は傍にいる周瑜と魯粛を見た。
「敵の動きをどう見る?」
「文聘が囮となり、敵を引き付けている間に、蔡瑁率いる水軍で襄陽を攻撃。その攻撃を知った曹操軍が撤退する背を攻撃し、敵の戦力を削ぐという事も考えられますな」
「しかし、如何に荊州水軍が強力と言えど、襄陽を攻撃するには些か攻め手に掛けると言えます。敵もそれを見込んで、襄陽攻撃の報を無視して、文聘軍を攻撃し壊滅させるという事になるかも知れませんぞ」
周瑜と魯粛の意見を聞いても、孫権は唸るだけであった。
「・・・・・・結局の所、蔡瑁が何処に向かうのか分からなければ、対処も出来んな」
「もう少し調べてから、対処を考えましょうか」
「それが良いですな」
周瑜が様子見をしようと言うと、魯粛も同意した。
其処で話が終わったのだが、其処に兵が駆け込んで来た。
「殿、丹陽郡から早馬が来て、この文を殿にと」
兵がそう言い、持っている文を孫権に渡した。
文を受け取った孫権は広げて、中を改めると徐々に顔を赤くしていった。
「・・・・・・韓綜がまた攻め込んできおったわ! 攻撃の勢いは激しく郡内にある兵だけでは対処が難しく、至急援軍を求めているぞっ」
孫権は、文を床に叩き付け吠えた。
周瑜達も内心で同じ気持ちであった。
「殿、わたしが対処いたします。ですので、怒りを御収め下さい」
「そうかっ。では、直ぐに兵の準備をして、韓綜を討ち取ってこい!」
「承知しました」
周瑜は一礼し、部屋を出て行くと直ぐに兵の準備に取り掛かった。
数日後。
周瑜が軍を率いて、丹陽郡へと向かった。
それから、数日後。
孫権の下に、衝撃の報告が齎された。
「なにっ、蔡瑁が江夏郡に向かっているだと⁉」
「はい。蔡瑁の動きに合わせるかのように、黄祖が兵を動かしました。西に向かっているとの事ですから、恐らく狙いは劉備の西陵県と思われます」
「おのれ、してやられたわっ」
「文聘軍が曹操軍にぶつかったので、敵の狙いが襄陽と思い込んでしまいましたな」
孫権は立腹し、魯粛は敵の策の見事さを称えていた。
「それは認めよう。問題は、今周瑜が軍の大半を率いて丹陽郡に居る。今から呼び戻すのは時間が掛る。城内に残っているのは守る為の最低限の兵しかおらん。魯粛、直ぐに兵の準備が出来るか?」
「無理ですな」
孫権の問いかけに魯粛は即答した。
「兵を集めるには時間が掛ります。我らが兵を集めている間に、黄祖と蔡瑁軍が西陵県を攻撃するでしょう。如何に劉備殿とは言え、兵の数が違いすぎます。落城は免れないかと」
「おのれ、劉表めっ・・・・・・急ぎ、劉備に文を送れ。今我らは援軍を送る余裕は無い。城を死守せよ。もし、落城した場合は揚州に戻って来いと」
歯軋りした孫権は、直ぐに劉備に城を死守する事と、もし落城した場合は揚州に戻って来ても悪いようにしない事を文に書く様に命じた。
魯粛も現状はそれしか手段がないので、何も言う事が出来ず、ただ命じられた通りに文を送る事にした。
黄祖軍と蔡瑁軍が迫っていく中で、劉備の下に孫権からの文が届けられた。
援軍を送って来るだろうという期待を込めて、文を広げ、書かれている内容を読んで劉備は膝から崩れ落ちた。
「あ、兄者⁉」
「殿、孫権殿は何と?」
絶望している劉備に、張飛達が心配になり尋ねた。
「・・・・・・今、周瑜殿が兵の大半を率いて、丹陽郡に攻め込んで来た曹操軍の対処の為に出陣した為、援軍を送る事は出来ぬ。自力で城を守れ、もし落城した場合は揚州に戻って来いとの事だ」
「はあああっ⁉ 要するに、俺達だけで城を守れという事かっ」
「弱りましたな。黄祖軍には、何度も奇策を用いて撃退しておりますので、もうどう対処するか分かっているかも知れません。其処に加えて、蔡瑁率いる水軍も迫っております。我らだけでは対処が出来ません」
張飛は文の内容を聞き憤慨し、単福は難しい顔で唸っていた。
「だが、我らには出来る事は、それしかない。皆、此処は踏ん張りどころだ。この城を死守するぞ!」
劉備が檄を飛ばしたが、張飛達は暗い顔を浮かべていた。
そして、軍議を行うと、此処は籠城し時を稼ぐしかないという事で話が纏まり、籠城の準備に取り掛かった。
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