知られてしまった

 その後、曹昂は久しぶりに弟達と交流する事にした。


 部屋を出る際、曹彰が曹熊に春画を一枚くれとせがみだした。


 曹熊は押しに負けて、一枚上げると曹彰はとても喜びながら部屋を出て行った。



 その三日後。



 そろそろ、陳留に帰ろうかと考えていた曹昂の下に使用人が来た。


「丞相が御呼びです。直ぐに来る様にと」


「父上が?」


 何用で呼んだのか分からなかったが、曹昂は直ぐに曹操の部屋へと向かった。


 部屋の前に来ると、許褚がおり曹昂を見るなり、一礼し「暫しお待ちを」と言って部屋の中に入って行った。


 少しすると、戻って来た許褚が手で入室する様に促した。


 曹昂は部屋に入ると、目に映る光景を見てギョッとした。


 室内には、曹操の他に卞蓮と、曹丕、曹彰、曹植更に曹熊の姿があった。


 その中で曹熊は怯えた様にビクビク震えて座り込み、曹彰は視線を宙に向けており、曹丕はそんな曹彰を非難している目を向けていた。


 曹植はどうするべきか分からず、父曹操と弟の曹熊を交互に見ながらオロオロしていた。


(何事だ? 何が起こってるのか全く分からない)


 曹昂はこの部屋の状況を見ても、どうして自分が呼ばれたのか分からず、首を傾げていた。


「・・・父上、お呼びとの事で参りました」


「来たか。子脩、お前は、熊が絵を描いている事を知っていたか?」


 曹操の口から、絵の事を聞かれたので、曹昂はようやく、曹熊の事で集まったのだと分かった。


「少し前に初めて知りました。何でも子廉さんが、熊の絵を見て見込みがあると思い、絵師に手ほどきを受けたとか」


「あいつめ、わたしにそのような事など、一言も話さなかったぞ」


 曹操は忌々しいとばかりに、鼻を鳴らした。


「子廉さんも忙しいので忘れていたのではないでしょうか?」 


「だからと言って、わたしはこやつの親だぞ。子が何をしているのか知る権利はあるであろうっ」


「そうかも知れませんね。其処は伝え忘れた子廉さんの落ち度だと思います」


 曹昂はそう言った後、曹熊を見た。


 これから、どうなるのか分からず、酷く怯えて身体を震わせていた。


(取って食われる訳ではないと思うが?)


 酷く怯えている曹熊をよそに、曹昂は訊ねた。


「それで、父上はどの様な経緯で、熊が絵を描けると知ったのですか?」


「昨日、彰の下に訪ねたのだ」


 曹操がそう教えるので。曹昂は先程から曹彰の態度が変な理由が分かった。


「こやつは、弓術や武術の稽古はしても勉学を全くせんからな、親として勉学はするべきだと思い、彰の部屋に尋ねると居なくてな。その代わり、机の上に春画が置かれていたのだ」


「成程。その絵を見て、彰に誰が描いたのか尋ね、熊が描いていると分かったのですね」


「少し違うが。概ね合っている。その絵を見ていると、彰が部屋に戻って来たから、絵の作者を尋ねると答えたのだ。その後、丕と植を呼び、熊が絵を描いている事を知っているかどうかを尋ねると、一度は知らないと言ったが、彰が喋った事を話すと、二人は教えたぞ」


「そうでしたか。では、卞夫人もその時に知ったのですね」


「いや、こいつはかなり前から知っていた様だぞ」


 曹操はジロリと卞蓮を睨むと、睨まれた本人は笑みを浮かべるだけであった。


「旦那様。熊はわたしが腹を痛めて生んだ子供よ。子が日がな一日、部屋に居ると聞けば、何をしているのか気になるのは当然でしょう。この子の部屋を訪ねたら、熊が疲れて眠っていたのよ。起こさない様にしながら、何をしているのか見ると、絵を描いている事を知ったのよ。熊の性格から、わたしや旦那様に知られるのは恥ずかしいと思うから、黙っていたのよ」


「・・・・・・わたしは別に、熊がどんな絵を描こうが気にせんが。せめて、教えても良いと思うがな」


 溜め息を吐いた曹操は曹熊を見る。


「熊」


「は、はい。父上」


「今度から、良い絵を描けたら、父にも見せよ」


「は、はいっ」


 曹熊は安堵し息を吐いた。


 余談だが、曹操は曹熊の絵、とくに春画に対して、細かい指摘を入れて、自分好みの絵を描く様にした。その中でも、とある姉妹の絵を大層気に入った。

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