第10話『衝動的に、』
日曜日がやってきた。姫との初デートの日だ。
私は今日、姫に告白するつもりだ。
金曜の夜の通話で確信した。私は姫の気持ちに応えたい、姫と恋人になりたい。
さて、問題はどのタイミングで告白するか、だ。大人だったら、オシャレなレストランで告白〜とかがセオリーなんだろうけど、あいにく私は中学生で姫は小学生だ。
頭の中であれこれ考えながら歩き、約束の五分前に待ち合わせのバス停についた。
そこには姫が本を読みながら立っていた……いや、天使が降臨していた。
か、かわいすぎる……!!
姫は、裾にフリルのついた白いワンピースに、フワフワのケープコートを羽織っている。胸元には大きなリボン。白タイツに白のパンプスを履き、白いボンボンのついたヘアゴムでツインテールにしている。すべてがとても似合っていた。
ズキューン。雪うさぎの妖精がいたら、きっとこんな感じなんだろうなぁ……
精一杯おめかしをして、ピアノの発表会に出る子みたいな風貌だ。私のために最大限のオシャレをしてくれたのだろうか。
そう考えると、さらにズキューン。キュン瀕死。
胸のトキメキを抑え、平静を装い、声をかける。
「姫ー。おはよ」
「
姫は全身をパァっと輝かせ、嬉しそうに顔をあげた。
「かわいっ……いや、ごめん、待った?」
「大丈夫です。読書でいくらでも暇をつぶせるので、待ち時間は苦痛じゃありません」
姫が手に持っている文庫本には『花物語 下』と書いてあった。
「唯都ねえねの服、お姉さんという感じで、キューンときます」
「ありがとう」
私は、水色のダボっとしたスウェットにショートパンツを合わせ、ニーハイブーツを履いている。冬でも寒くないこの県では、着膨れの心配をしなくてもいいところが良い。
姫はモコモコでもかわいいけどな。
「今日の姫、本当にかわいいよ」
「ありがとうございます!」
そのまま姫はぴょこんと一回転する。頑張ったオシャレを見てもらいたいのだろう。でもそんなぴょこぴょこされると、どこかに消えて行ってしまいそうで不安になる。
「姫、誘拐されそうで怖い。今日は一日中私にギュッとしときな」
「えっ?わかりました」
姫は小さくうなずき、私の体に真正面から抱きついた。
「ギュッ」
ズキューン……
「好きだ!!」
耐えきれず叫んでしまった。
「えっ?」
姫が驚いた様子で、私の言葉を聞き返した。
「やっ……あの……ごめん、言い方が悪かった。私の腕の方をギュッと組んでくれ。正面からギュッとされると歩けない」
「わかりました」
姫は体勢を変え、私の左腕に抱きついた。
「ところで、さっき『好きだ』と言いましたよね?」
「……言いました」
「これって、告白の返事ですか?」
「あぁ!そうだよ!」
こんな衝動的に告白してしまうなんて。恥ずかしくて、全身が熱い。冬なのに汗がブワッとわいてくる。
チラッと横目で姫を見る。
唐突な告白を受けても、驚くことなく、ただただ幸せそうに私の腕を抱きしめている。
「驚かないんだな」
「だって唯都ねえねはボクの運命の人ですから。当然です」
自信たっぷりに宣言された。先週まで人見知りしてオドオドしていた子と同一人物だとは思えない。いや、これが本来の姫なのかもしれない。
姫がとても嬉しそうなので、私も嬉しい。しかし、それはそれとして、別のプレッシャーがのしかかる。
私たちはもう恋人同士だ。つまり、今から行うのは、恋人との初デートということになる。
私は恋人とのデートを成功させたことがない。
『唯都、本当は楽しくなかったでしょ。私も楽しくなかったよ』
元カノの苦言がフラッシュバックし、体が強張った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます